以前にとある関係先から
「これってスパムですか?」
と質問されて確認のために転送してもらったメールがあって,確かにそれはUPS(アメリカの貨物会社)を騙るスパムだったのですが,zip添付ファイルがついておりまして,悪質なことにトロイの木馬が入っていました。
確認して「スパムですねぇ」と問い合わせもとに伝えた後,そのメッセージをさっさと削除すればよかったものの,ずっとそのままにしておりました。
昨日カスペルスキーに完全スキャンをさせてたら,「Thunderbirdのインボックスの中にトロイの木馬があるよ!!…でも駆除できないよ!!」って(当たり前だけど)警告してきたので,そういや削除してなかったなぁ,「じゃあ削除で」とお願いしたら…
インボックスごと削除しやがった…
おかげさまで,これまでいただいたメールがすべて消えてしまいました。
まあGmailのほうにすべて転送していたので,実質的な被害はなかったのですが,やらかしました。
メーラーの構造を理解していればそんなことしなかったのに…やっぱりメーラーで手動で削除すべきでした…
2009年6月16日火曜日
磁気と生体(11)
いよいよ第1回「磁気と肩こり豆知識」」の最後の段落。
「「窮すれば通ず」ということわざがあるが、まさにハイパワーの磁気治療器は、磁気欠乏(不足)症候群の現代人を救うために、生まれるべくして生まれたもの。磁気治療など効くものかなどと思い込んでいるガンコな頭をまずほぐして、とにかく試用してしてみることをご推奨する。あらゆるこりやストレスに速効ありとはいわないが、かなりの高確率で驚異的な効果を発揮していることは、まぎれもない事実なのだ。」
あー,ついに「ガンコ」と言われてしまいましたな…
まあぼくの場合「効くものかなどと思い込んでいる」わけではなくて,このシリーズの科学的価値がひどいということと,そもそも磁石が肩こりに効くという命題の科学的立証が不十分だと言っているのですが。
それにしても「とにかく試用してみることをご推奨する」ってのはものすごく余計なお世話ですね。残念ながら健康食品とか化粧品とかのネットワークビジネスを勧めてくる迷惑千万な人と言っていることが同じです…
「とにかく使ってみてよ,全然違うんだからぁ!!…すぐには効果出ないかもしれないけど,最低ひと月はつかってみてぇ。肌もつるつるよぉ~~」
…いりません。
「かなりの高確率で驚異的な効果を発揮」というのも,非常に困りますね。
「磁気と生体(4)」で述べたように,永久磁石の治療効果に関する臨床医学的な文献を調べる分には結果が矛盾していて驚異的な効果を発揮しているようには見えませんし,ましてや「まぎれのない事実」などとは到底言えません。紛れだらけです。
また,「「フレミングの法則」で血行を促進」の節のように,あるいはこの「磁気と生体」シリーズ全体のように,いかにも科学的根拠があるような説明をするほど科学に立脚した文章を目指しているのなら―まあ,「サイエンスストーリー」を標榜しているのだからそのつもりなんでしょうけど―「高確率で驚異的な効果を発揮」なんて言い方はできないはずです。
「このテレビはかなりの高確率で電源が入ります」
「この車はかなりの高確率でブレーキが効きます」
とか言われてそのテレビや車を買いますか?
…ぼくは買いません。
もし電源が入らなかったら,もしブレーキが効かなかったら,それはどこかに欠陥があり,どこかが故障しているのでしょう。
すべての人が同じように推察するかどうか分かりませんが,ぼくはそう推察します。だから買わない。それが合理性というものです。
テレビや車は高度な科学技術の集まりであり,正しく作られた回路は電圧をかければ望み通り作動するし,適切に摩擦を制御すれば動いているものは止まります。
これらの科学技術の背後にある物理法則は,状況が揃えば規定している現象が100%起こります。そこに「高確率で起こる」というような生起確率云々の入る余地はありません。
「フレミングの左手の法則」はかなりの高確率で力を生み出すんですかね?
磁気治療の効果について効いたり効かなかったり結果が混乱しているのは,再現性のある結果が得られるような状況がまだ分かっていないからです。
科学的なメカニズムが云々という話ができる段階ではないのだから,意味の分からない無茶苦茶な文章を並べ立てるべきではないし,科学的根拠がなんであるかも分からない人が説明を試みるべきではない。
そもそもそんな無価値で荒唐無稽かつ詭弁にあふれた疑似科学的説明をする前に,磁気治療にどれほどの効果があると言えるのか,臨床医学的研究に関してももっと適切に紹介すべきです。
※「磁気治療の科学的なメカニズムについてはまだ分かっていない」という文章をみることがあります。この文章は節度のある文章で良いのではないかという向きもあるかと思いますが,この文章には「磁気治療には効果がある」という前提があるので,駄目です。事実ではないことに根拠は存在しません。
いや分かっています。言いすぎています。ただ「ガンコ」とか不当なこと言われて頭に来ただけです。
ですが,こういう言い方を平気でするところからも,このシリーズがサイエンスとは程遠いひどいものであることが明白だとぼくは思います。
追記:人間の合理性への志向および物事に対して合理的かどうかを感じる感受性は,人間が幾多の進化を経て現在に至ることができた重要な要因だとぼくは思っています。
その意味で人間は例外なく合理的です。
ぼくは,科学で飯を食っているということも多分にあることはもちろん認めますが,個人的な思い込みを優先させるために合理性と合理性の存在を否定することは非常に馬鹿げていると思っています。
あ,さらに追記すると,もちろんこのシリーズが合理性を否定しているとは思っていません。ただ「それが合理性というものだ」とか言うと,過剰に反発されることが多いので,検証とは関係なく長々と注釈を書いてしまいした。
「「窮すれば通ず」ということわざがあるが、まさにハイパワーの磁気治療器は、磁気欠乏(不足)症候群の現代人を救うために、生まれるべくして生まれたもの。磁気治療など効くものかなどと思い込んでいるガンコな頭をまずほぐして、とにかく試用してしてみることをご推奨する。あらゆるこりやストレスに速効ありとはいわないが、かなりの高確率で驚異的な効果を発揮していることは、まぎれもない事実なのだ。」
あー,ついに「ガンコ」と言われてしまいましたな…
まあぼくの場合「効くものかなどと思い込んでいる」わけではなくて,このシリーズの科学的価値がひどいということと,そもそも磁石が肩こりに効くという命題の科学的立証が不十分だと言っているのですが。
それにしても「とにかく試用してみることをご推奨する」ってのはものすごく余計なお世話ですね。残念ながら健康食品とか化粧品とかのネットワークビジネスを勧めてくる迷惑千万な人と言っていることが同じです…
「とにかく使ってみてよ,全然違うんだからぁ!!…すぐには効果出ないかもしれないけど,最低ひと月はつかってみてぇ。肌もつるつるよぉ~~」
…いりません。
「かなりの高確率で驚異的な効果を発揮」というのも,非常に困りますね。
「磁気と生体(4)」で述べたように,永久磁石の治療効果に関する臨床医学的な文献を調べる分には結果が矛盾していて驚異的な効果を発揮しているようには見えませんし,ましてや「まぎれのない事実」などとは到底言えません。紛れだらけです。
また,「「フレミングの法則」で血行を促進」の節のように,あるいはこの「磁気と生体」シリーズ全体のように,いかにも科学的根拠があるような説明をするほど科学に立脚した文章を目指しているのなら―まあ,「サイエンスストーリー」を標榜しているのだからそのつもりなんでしょうけど―「高確率で驚異的な効果を発揮」なんて言い方はできないはずです。
「このテレビはかなりの高確率で電源が入ります」
「この車はかなりの高確率でブレーキが効きます」
とか言われてそのテレビや車を買いますか?
…ぼくは買いません。
もし電源が入らなかったら,もしブレーキが効かなかったら,それはどこかに欠陥があり,どこかが故障しているのでしょう。
すべての人が同じように推察するかどうか分かりませんが,ぼくはそう推察します。だから買わない。それが合理性というものです。
テレビや車は高度な科学技術の集まりであり,正しく作られた回路は電圧をかければ望み通り作動するし,適切に摩擦を制御すれば動いているものは止まります。
これらの科学技術の背後にある物理法則は,状況が揃えば規定している現象が100%起こります。そこに「高確率で起こる」というような生起確率云々の入る余地はありません。
「フレミングの左手の法則」はかなりの高確率で力を生み出すんですかね?
磁気治療の効果について効いたり効かなかったり結果が混乱しているのは,再現性のある結果が得られるような状況がまだ分かっていないからです。
科学的なメカニズムが云々という話ができる段階ではないのだから,意味の分からない無茶苦茶な文章を並べ立てるべきではないし,科学的根拠がなんであるかも分からない人が説明を試みるべきではない。
そもそもそんな無価値で荒唐無稽かつ詭弁にあふれた疑似科学的説明をする前に,磁気治療にどれほどの効果があると言えるのか,臨床医学的研究に関してももっと適切に紹介すべきです。
※「磁気治療の科学的なメカニズムについてはまだ分かっていない」という文章をみることがあります。この文章は節度のある文章で良いのではないかという向きもあるかと思いますが,この文章には「磁気治療には効果がある」という前提があるので,駄目です。事実ではないことに根拠は存在しません。
いや分かっています。言いすぎています。ただ「ガンコ」とか不当なこと言われて頭に来ただけです。
ですが,こういう言い方を平気でするところからも,このシリーズがサイエンスとは程遠いひどいものであることが明白だとぼくは思います。
追記:人間の合理性への志向および物事に対して合理的かどうかを感じる感受性は,人間が幾多の進化を経て現在に至ることができた重要な要因だとぼくは思っています。
その意味で人間は例外なく合理的です。
ぼくは,科学で飯を食っているということも多分にあることはもちろん認めますが,個人的な思い込みを優先させるために合理性と合理性の存在を否定することは非常に馬鹿げていると思っています。
あ,さらに追記すると,もちろんこのシリーズが合理性を否定しているとは思っていません。ただ「それが合理性というものだ」とか言うと,過剰に反発されることが多いので,検証とは関係なく長々と注釈を書いてしまいした。
2009年6月15日月曜日
磁気と生体(10)
魅惑のサイエンスストーリー「磁気と生体」検証シリーズ。
第1回「磁気と肩こり豆知識」続き。
いや~,やっと第1回の最後の節だよ。やれやれ。
検証シリーズ第1回から3カ月近く経ってますねぇ。検証シリーズ中でやると言ってやってないことも結構あるな,と反省しつつ。
最後の節のタイトルは
「■現代人に不足する磁気を補給」
…このタイトルも意味不明ですね。へぇ~,磁気って補給できるものなんだー
最初の段落
「しかし、医学研究者たちは、現代人の「磁気欠乏(不足)症候群」を声高に警告している。」
ふーん,「磁気欠乏(不足)症候群」ってのは医学研究者たちによって声高に警告されてきたそうですが,ぼくは初めて聞きました。
新型インフルエンザに対する警告は昨今どこでも聞いておりますが。
だいたい,「医学研究者たち」って誰ですか?
まあ,どなたがこんなことを言い出したのか分かってはいます。(「磁気と生体」シリーズ第2回にこの「医学研究者」ってのが誰だか名前が出てきます。)
ここでは,この「磁気欠乏(不足)症候群」とやらが世間にどれだけ知られているのか,グーグル先生に聞いてみましょう。(2009年6月15日時点)
(1)「”磁気欠乏症候群”」…172件
(2)「”磁気不足症候群”」…143件
(3)「”過敏性腸症候群”」…180,000件
・・・どうやら警告の効果はあまりないようですね。
さて,次に行きましょう。
「鉄筋・鉄骨コンクリートのビルで仕事をし、マンションで生活し、電車やマイカーで通勤するという現代生活は、まるで四六時中、鉄箱の中にいるようなもの。これでは地磁気が鉄に吸収されてしまって、人体への作用が小さくなってしまう。」
この文章の中で意味が分からないのは「地磁気が鉄に吸収されて」という部分。
「吸収」ってなんですか??
電場の場合,電気力線を書いた場合にプラスの電荷から発生して,マイナスの電荷に吸収するように書くことができ,これを吸収と呼ぶことができます。しかし電場と違って,磁場には真性の「磁荷」が存在しないので,その意味で磁場が吸収されることはあり得ません。
より正確には透磁率の違う物質の境界面では分極磁荷が誘起されるとして,磁荷を導入して記述することが可能であり,結果として記号Hで通常表わされる「磁場」は不連続になることもあり得,電気力線と同様に磁力線が吸収されたように記述することは出来ますが,記号Bで通常表わされる「磁束密度」は連続のままなので,磁性体があろうがなかろうが磁束線はどこでも連続です。初めも終わりもありません。必ず閉じた曲線です。
また,真性の磁荷は存在しないので,このような境界面以外で磁力線が分断されることはありません。
地磁気のような一様磁場中に鉄の箱を置いた場合,空気に比べて鉄の透磁率は高いので磁束線が鉄の中をより通りやすくなって箱を構成している鉄板の内部の磁束線は密度が高くなり,結果として箱の内部ではほとんど磁束線がなくなります。
これは磁気シールドボックスのやっていることですが,これは鉄が磁気を「吸収」するのとは全然違います。
まあ確かに車の中などでは地磁気は弱くなるでしょうがね…
さて,つぎ。
「詳しくは次号で紹介するが、地磁気はこの200年間で約10%も減少している。おいしい空気や水とともに、磁気は健康になくてはならないものであるが、現代人は自然環境からも人為的環境からも、ますます磁気不足に見舞われているのだ。」
この文章のうち,「地磁気はこの200年間で約10%も減少している」というのは事実です。
しかし「東京に比べ赤道上では地磁気(全磁力)は約20%減少する」というのも事実です[1]。…ここの文章とは関係ありませんが。
[1]国立天文台編「理科年表 平成21年版」(丸善,2009)地学202(766)ページ。
この点についてはぼくも詳しくは次号で紹介します(次号じゃないかもだけど)。
そのあとの「磁気は健康になくてはならないもの」発言は失笑するしかありませんが,おいしい空気や水は確かに健康になくてはならないものだよねー
第1回「磁気と肩こり豆知識」続き。
いや~,やっと第1回の最後の節だよ。やれやれ。
検証シリーズ第1回から3カ月近く経ってますねぇ。検証シリーズ中でやると言ってやってないことも結構あるな,と反省しつつ。
最後の節のタイトルは
「■現代人に不足する磁気を補給」
…このタイトルも意味不明ですね。へぇ~,磁気って補給できるものなんだー
最初の段落
「しかし、医学研究者たちは、現代人の「磁気欠乏(不足)症候群」を声高に警告している。」
ふーん,「磁気欠乏(不足)症候群」ってのは医学研究者たちによって声高に警告されてきたそうですが,ぼくは初めて聞きました。
新型インフルエンザに対する警告は昨今どこでも聞いておりますが。
だいたい,「医学研究者たち」って誰ですか?
まあ,どなたがこんなことを言い出したのか分かってはいます。(「磁気と生体」シリーズ第2回にこの「医学研究者」ってのが誰だか名前が出てきます。)
ここでは,この「磁気欠乏(不足)症候群」とやらが世間にどれだけ知られているのか,グーグル先生に聞いてみましょう。(2009年6月15日時点)
(1)「”磁気欠乏症候群”」…172件
(2)「”磁気不足症候群”」…143件
(3)「”過敏性腸症候群”」…180,000件
・・・どうやら警告の効果はあまりないようですね。
さて,次に行きましょう。
「鉄筋・鉄骨コンクリートのビルで仕事をし、マンションで生活し、電車やマイカーで通勤するという現代生活は、まるで四六時中、鉄箱の中にいるようなもの。これでは地磁気が鉄に吸収されてしまって、人体への作用が小さくなってしまう。」
この文章の中で意味が分からないのは「地磁気が鉄に吸収されて」という部分。
「吸収」ってなんですか??
電場の場合,電気力線を書いた場合にプラスの電荷から発生して,マイナスの電荷に吸収するように書くことができ,これを吸収と呼ぶことができます。しかし電場と違って,磁場には真性の「磁荷」が存在しないので,その意味で磁場が吸収されることはあり得ません。
より正確には透磁率の違う物質の境界面では分極磁荷が誘起されるとして,磁荷を導入して記述することが可能であり,結果として記号Hで通常表わされる「磁場」は不連続になることもあり得,電気力線と同様に磁力線が吸収されたように記述することは出来ますが,記号Bで通常表わされる「磁束密度」は連続のままなので,磁性体があろうがなかろうが磁束線はどこでも連続です。初めも終わりもありません。必ず閉じた曲線です。
また,真性の磁荷は存在しないので,このような境界面以外で磁力線が分断されることはありません。
地磁気のような一様磁場中に鉄の箱を置いた場合,空気に比べて鉄の透磁率は高いので磁束線が鉄の中をより通りやすくなって箱を構成している鉄板の内部の磁束線は密度が高くなり,結果として箱の内部ではほとんど磁束線がなくなります。
これは磁気シールドボックスのやっていることですが,これは鉄が磁気を「吸収」するのとは全然違います。
まあ確かに車の中などでは地磁気は弱くなるでしょうがね…
さて,つぎ。
「詳しくは次号で紹介するが、地磁気はこの200年間で約10%も減少している。おいしい空気や水とともに、磁気は健康になくてはならないものであるが、現代人は自然環境からも人為的環境からも、ますます磁気不足に見舞われているのだ。」
この文章のうち,「地磁気はこの200年間で約10%も減少している」というのは事実です。
しかし「東京に比べ赤道上では地磁気(全磁力)は約20%減少する」というのも事実です[1]。…ここの文章とは関係ありませんが。
[1]国立天文台編「理科年表 平成21年版」(丸善,2009)地学202(766)ページ。
この点についてはぼくも詳しくは次号で紹介します(次号じゃないかもだけど)。
そのあとの「磁気は健康になくてはならないもの」発言は失笑するしかありませんが,おいしい空気や水は確かに健康になくてはならないものだよねー
2009年6月14日日曜日
磁気と生体(9)
ずいぶん間が空いてしまったけど,決して投げ出したわけではないよ,魅惑のサイエンスストーリー「磁気と生体」検証シリーズ。
「■「フレミングの法則」で血行を促進」節,第3段落目「ところで…」以下。
「ところで、10数年前、にわかに第2の磁気治療器ブームが巻き起こったのだが、それは強力な磁気エネルギーをもつ「希土類磁石」が開発され、使われるようになったからだ。なかでも「サマリウムコバルト磁石」の磁気エネルギー(最大エネルギー積という)は20000000ガウス・エルステッド。フェライトの約5倍、アルニコ磁石などの鋳造磁石の約30倍。これは、同じ鉄球を吸引して吊り上げるのに、フェライトでは5倍の体積、アルニコ磁石では何と約400倍の体積を必要とするハイパワーである。強力な磁気エネルギーをもつため磁石を小さくでき、肩・首・腕・腰などに負担をかけずスマートに治療ができる製品が各種開発され、磁気治療はますます広がりをみせるようになった。」
科学的に見た場合,ここはそんなに問題がないです。
唐突に「最大エネルギー積」なんて聞きなれない言葉が出てきますが。
ぼくは磁性および磁性材料の専門家ではないので,この用語を知りませんでした。
なのでちょっと調べてみたところ,最大エネルギー積とは強磁性体のヒステリシス曲線の減磁曲線部分(第2象限。永久磁石の特性を示す)について縦軸の磁束密度と横軸の磁場を掛け算して描いた曲線の最大値で,永久磁石の強さを表す指標の一つだそうです[1]。あとでもっとくわしく紹介します。
[1]例えば,日本材料科学会編「近代磁性材料」(裳華房,1998)1ページ。
式だけ見ると,最大エネルギー積は(B・H)_maxとか書くのですが,B・Hと言えば磁場中で一様に磁化した常磁性体中の磁場のエネルギー密度の(2倍の)式と同じですね。(希土類永久磁石のような強磁性体ではなくて)
ここで本文について一つ難癖をつけるとすれば,「磁気エネルギー」という言葉です。この著者は「磁気エネルギー=最大エネルギー積」として用語を用いていますが,これはおかしい。
まず前述したように最大エネルギー積はエネルギーの次元ではなく,単位体積当たりのエネルギーの次元を持っています。まあでもこれは細かい難癖。
(ぼくがこのシリーズでやっているのは全部細かい難癖の集合が何を示すか,ですが)
また,通常「磁気エネルギー」という用語は静磁場の持つエネルギーを意味します(それでも示す意味が曖昧なため,あまり使用しない用語ではある)。静磁場のエネルギーには,磁性体中の静磁場の持つエネルギーと,磁性体の外にできる静磁場のエネルギーがあります。
サマリウム・コバルト系などの希土類永久磁石は強磁性体であるから最大エネルギー積の表式は強磁性体中の有効磁場の持つエネルギー密度には対応しません[2]。
[2] 平川浩正「電磁気学」(培風館,1968)146~7ページ。
したがって,(最大)エネルギー積は永久磁石自身の内部有効磁場の持つエネルギー密度ではない。ではなんだろう?
そこで,他の本も調べてみました。
たとえば,平賀他編著「フェライト」(丸善,1998)の132ページには,
「これ(註:最大エネルギー積のこと)は単位体積当たりの磁石材料が外部につくりうる最大の静磁エネルギーの2倍に相当する」
「(BH)_MAXは実用上重要な値であり,磁石が外部に作る開磁束量の目安となる」
と書いてあります。
これだけでは良く分かりませんので,もう少し別の本を見てみましょう。
まず,先にもあげた日本材料科学会編「近代磁性材料」((裳華房,1998)1ページ。
「永久磁石の磁気特性は,図1.1に示すB-Hヒステリシス曲線の第2象限の部分,すなわち減磁曲線によって表す。着磁した後の単体の磁石の動作点はこの減磁曲線の1点で示される。ここでの磁界Hは着磁方向とは逆向きで減磁界とよび,左向きを正とする。その縦軸の切片を残留磁束密度とよび,Brと記号する。横軸の切片を保磁力とよび,Hcと記号する。減磁曲線上の各点でのBとHの積BHの最大値をとって,最大エネルギー積とよび,(BH)maxとする。これら3つの値Br,Hc,および(BH)maxが減磁曲線から読み取る磁石特性値である。このうち(BH)maxは着磁した磁石が外部に作る静磁界のエネルギーに比例する量で,永久磁石の性能指数として広く用いられている。」

(図1.1:ぼくの再現手書きです)
ふーむ。なるほど…
「静磁界のエネルギーに比例する量」ってどういう意味かよくわからないけど。どういう風に比例するのか書いてほしいな。
あと,どうもこの本だけに限らず,磁性体についてよく分からないことが一点。
ヒステリシス曲線ということは,外部から磁場を印加した状態での測定結果なわけで,ヒステリシス曲線の横軸は印加磁場と反磁場の和(差でもいいけど)である有効磁場のはず。(上記の引用箇所では単に“磁界”と書いてあって曖昧だが)
しかし,永久磁石ってのは外部磁場なしで用いるものなんだから,外部磁場なしの物性量でその性能を評価すべきなんじゃないだろうか??
そもそもヒステリシス曲線のx軸である磁場は,印加磁場なの?有効磁場なの?
このあたり,多くの本では曖昧です。これは,困る。
増田晋・内山守男著「磁性体材料」(コロナ社,1980)の19~20ページに次のような注釈がありました。
「…表1.2に示した透磁率をはじめ,いろいろのハンドブック,文献に示される磁化曲線,透磁率の値などは,ほとんどすべて有効磁界Hに対するものであり,印加磁界H_extに対するものではないことに十分注意されたい」
(強調はBudori)
そのあとに,実際の測定で得られるM(磁化)-H_extヒステリシスを「みかけの磁化特性」と呼び,この見かけのヒステリシスをM-有効磁場Hヒステリシスにする方法が述べられています。これを「ずれ補正(shearing)」というらしい。
やっぱり有効磁場なんですね。
(しかし,たとえば牧野編「永久磁石 その設計と応用」(アグネ技術センター,1966)なんかは,「外部磁場」と曖昧な言葉を使いつつ,どう読んでも外部印加磁場のままで話が進んでいる)
※この増田・内山著「磁性体材料」はいい本ですね~。かなりしっかりと曖昧さなしに書いてあります。
確かに,島田寛・山田興治編「磁性材料―物性・工学的特性と測定法」(講談社サイエンティフィク,1999)では最大エネルギー積の説明のところで(97ページ)
「…動作点(註)での磁束密度Bwと有効磁場Hwの積の絶対値|Bw・Hw|をエネルギー積と呼ぶ。この値は図3.15の灰色部分の面積となり,磁石が外部に作る静磁エネルギーの2倍を与える。Wの位置を変化させると,エネルギー積も変化し,ある点で最大となる。このときの値を最大エネルギー積(BH)maxと呼ぶ」
と書いてあります。(図3.15は省略)
(註)動作点Wとは,「永久磁石が実際にとある磁化状態にある点」のことだとぼくは解釈しています。目の前にある永久磁石が必ず最大エネルギー積を与える磁化状態にあるとは限りませんものねぇ。
おお,ここで「磁石が外部に作る静磁エネルギーの2倍」と書いてある。
…しかし,厳密にはこれは正しくありません。前述したように次元がエネルギー密度なんだから,エネルギーじゃないでしょ。あとで示すように,これははっきり言って間違いです。
結構いい加減だね,みんな。
ということで,いろいろと磁性材料の本をぱらぱら読んでみましたが,内山・増田以外の本はかなり適当だなぁ,という印象を持ってしまいました。
これはやっぱりちゃんと解析できる例を挙げなければいけないということで,内山・増田192~195ページに準拠して検討してみます。数式が出てきます。数式をテキストで書くのは面倒くさいので,図でごまかします。
(ページ1)

(ページ2)

(ページ3)

この解析から分かることとして,外部の磁場のエネルギー量を計算すると,確かにそれは内部の磁場(この場合印加磁場はないので反磁場のみ)および磁束密度の積に比例するということ。そしてエネルギー積はエネルギー密度の次元をもつということも分かります。
であるからして,「最大エネルギー積=磁気エネルギー」というのは,かなり割り引いて考えれば,正しい。
にしても,永久磁石って面白いですね。そこに置くだけで周りのエネルギー状態を高くすることができるわけですから。自然はエネルギーの低い状態を常に好みますから,これはなかなかまれな事態です。このエネルギー上昇はどこから来たのか?
それは,磁性体をもっと仔細に検討する必要があるでしょうけど,そこまでの余裕はないので,適当な議論で済ませます。
消磁された強磁性体は,外部磁場なしでは磁区がばらばらな状態が最低エネルギー状態ですが,外部磁場を印加すると細かい磁区が揃って単一磁区(=飽和磁化した永久磁石)になった状態の方がエネルギーが低いため,磁化します。
この状態は磁場なしでは高エネルギー状態なので磁場を切ると中間状態のない磁性体なら熱揺らぎによってまた細かい磁区に分裂して行きますが,なんらかの工夫(結晶構造や不純物の添加)によって熱揺らぎに勝って不安定な状態である単磁区状態を保ち続けさせることができます。
ここで磁区がばらばらな状態からどれだけ不安定な状態を保つことができたかを表すのが最大エネルギー積と言ってよいのではないでしょうか。
(この議論にあまり大きな自信はありません)
ではなぜ永久磁石材料が違うと最大エネルギー積が異なるのか。これはヒステリシス曲線が物質によって違うからです。ではなぜ物質によってヒステリシス曲線が違うのか。これは難しい問題です。個々の物質の構造や磁化の反転機構などはこれがまた難しい物質科学の問題です。
いずれにしても,今検討している「磁気と生体」本文に正しく書かれているように,最大エネルギー積の大きい磁石と小さい磁石を比べた時に,最大エネルギー積が大きい方がより小さい体積で同じ強さの磁束密度を発生させることができます。
もっとも,磁石の強さを最大エネルギー積だけを指標にして見ると,サマリウム・コバルト系磁石の20Mガウス・エルステッドよりもネオジム系磁石の35~55M[3]ガウス・エルステッドの方が大きいのですが。
[3] 日立金属の2002年6月18日のニュースリリース。
さて今のところ,この「磁気と生体」シリーズでは「エネルギー」という言葉の濫用は見られませんが,うさんくさい磁気治療器の解説部分で「磁気のエネルギーが血液中のイオン解離を促進し…」のような文章を見ると,
「電解質中でイオン解離していない分子を解離させるためにどれだけエネルギーが必要だかご存知ですか?物にもよりますけど,解離平衡状態にある電解質でそれをするってことは,電気分解を発生させるということではなく,プラズマを作るということと同じですよ…そもそも静磁場は仕事をしないので,磁場の持つエネルギーを他のものに転換することはできないんですよ」
と突っ込みたくなります。
世の中には取り出せないエネルギーってのもたくさんあるんです。
どうも何かと「エネルギー」という言葉を拡大解釈する人が多いので,不愉快です。
ちなみにすげー細かいことですけど,「磁場が鉄球を吸引して吊り上げる」のは磁場が仕事をした結果だと思っている人がたまにいますが(深野一幸先生とか…と思ったら深野先生は『鉄球が重力に逆らっているような状態を磁石が保てるのは,空間からエネルギーを吸収しているからだ!』というもっと無茶な主張でした),それは誤解です。
鉄球が磁石に引き寄せられるのは,その方がポテンシャルエネルギーの低い状態であるからであり,そのポテンシャルエネルギーは引き寄せられる際の運動エネルギーにすべて転換されて,磁石と衝突した瞬間,お互いの表面付近の分子の振動に変換され,「カキーン」という音や振動,および熱になります。これは磁場が仕事をしたわけではありません。
今回はまた大してツッこんでないのに長くなったなぁ。。。
「■「フレミングの法則」で血行を促進」節,第3段落目「ところで…」以下。
「ところで、10数年前、にわかに第2の磁気治療器ブームが巻き起こったのだが、それは強力な磁気エネルギーをもつ「希土類磁石」が開発され、使われるようになったからだ。なかでも「サマリウムコバルト磁石」の磁気エネルギー(最大エネルギー積という)は20000000ガウス・エルステッド。フェライトの約5倍、アルニコ磁石などの鋳造磁石の約30倍。これは、同じ鉄球を吸引して吊り上げるのに、フェライトでは5倍の体積、アルニコ磁石では何と約400倍の体積を必要とするハイパワーである。強力な磁気エネルギーをもつため磁石を小さくでき、肩・首・腕・腰などに負担をかけずスマートに治療ができる製品が各種開発され、磁気治療はますます広がりをみせるようになった。」
科学的に見た場合,ここはそんなに問題がないです。
唐突に「最大エネルギー積」なんて聞きなれない言葉が出てきますが。
ぼくは磁性および磁性材料の専門家ではないので,この用語を知りませんでした。
なのでちょっと調べてみたところ,最大エネルギー積とは強磁性体のヒステリシス曲線の減磁曲線部分(第2象限。永久磁石の特性を示す)について縦軸の磁束密度と横軸の磁場を掛け算して描いた曲線の最大値で,永久磁石の強さを表す指標の一つだそうです[1]。あとでもっとくわしく紹介します。
[1]例えば,日本材料科学会編「近代磁性材料」(裳華房,1998)1ページ。
式だけ見ると,最大エネルギー積は(B・H)_maxとか書くのですが,B・Hと言えば磁場中で一様に磁化した常磁性体中の磁場のエネルギー密度の(2倍の)式と同じですね。(希土類永久磁石のような強磁性体ではなくて)
ここで本文について一つ難癖をつけるとすれば,「磁気エネルギー」という言葉です。この著者は「磁気エネルギー=最大エネルギー積」として用語を用いていますが,これはおかしい。
まず前述したように最大エネルギー積はエネルギーの次元ではなく,単位体積当たりのエネルギーの次元を持っています。まあでもこれは細かい難癖。
(ぼくがこのシリーズでやっているのは全部細かい難癖の集合が何を示すか,ですが)
また,通常「磁気エネルギー」という用語は静磁場の持つエネルギーを意味します(それでも示す意味が曖昧なため,あまり使用しない用語ではある)。静磁場のエネルギーには,磁性体中の静磁場の持つエネルギーと,磁性体の外にできる静磁場のエネルギーがあります。
サマリウム・コバルト系などの希土類永久磁石は強磁性体であるから最大エネルギー積の表式は強磁性体中の有効磁場の持つエネルギー密度には対応しません[2]。
[2] 平川浩正「電磁気学」(培風館,1968)146~7ページ。
したがって,(最大)エネルギー積は永久磁石自身の内部有効磁場の持つエネルギー密度ではない。ではなんだろう?
そこで,他の本も調べてみました。
たとえば,平賀他編著「フェライト」(丸善,1998)の132ページには,
「これ(註:最大エネルギー積のこと)は単位体積当たりの磁石材料が外部につくりうる最大の静磁エネルギーの2倍に相当する」
「(BH)_MAXは実用上重要な値であり,磁石が外部に作る開磁束量の目安となる」
と書いてあります。
これだけでは良く分かりませんので,もう少し別の本を見てみましょう。
まず,先にもあげた日本材料科学会編「近代磁性材料」((裳華房,1998)1ページ。
「永久磁石の磁気特性は,図1.1に示すB-Hヒステリシス曲線の第2象限の部分,すなわち減磁曲線によって表す。着磁した後の単体の磁石の動作点はこの減磁曲線の1点で示される。ここでの磁界Hは着磁方向とは逆向きで減磁界とよび,左向きを正とする。その縦軸の切片を残留磁束密度とよび,Brと記号する。横軸の切片を保磁力とよび,Hcと記号する。減磁曲線上の各点でのBとHの積BHの最大値をとって,最大エネルギー積とよび,(BH)maxとする。これら3つの値Br,Hc,および(BH)maxが減磁曲線から読み取る磁石特性値である。このうち(BH)maxは着磁した磁石が外部に作る静磁界のエネルギーに比例する量で,永久磁石の性能指数として広く用いられている。」

(図1.1:ぼくの再現手書きです)
ふーむ。なるほど…
「静磁界のエネルギーに比例する量」ってどういう意味かよくわからないけど。どういう風に比例するのか書いてほしいな。
あと,どうもこの本だけに限らず,磁性体についてよく分からないことが一点。
ヒステリシス曲線ということは,外部から磁場を印加した状態での測定結果なわけで,ヒステリシス曲線の横軸は印加磁場と反磁場の和(差でもいいけど)である有効磁場のはず。(上記の引用箇所では単に“磁界”と書いてあって曖昧だが)
しかし,永久磁石ってのは外部磁場なしで用いるものなんだから,外部磁場なしの物性量でその性能を評価すべきなんじゃないだろうか??
そもそもヒステリシス曲線のx軸である磁場は,印加磁場なの?有効磁場なの?
このあたり,多くの本では曖昧です。これは,困る。
増田晋・内山守男著「磁性体材料」(コロナ社,1980)の19~20ページに次のような注釈がありました。
「…表1.2に示した透磁率をはじめ,いろいろのハンドブック,文献に示される磁化曲線,透磁率の値などは,ほとんどすべて有効磁界Hに対するものであり,印加磁界H_extに対するものではないことに十分注意されたい」
(強調はBudori)
そのあとに,実際の測定で得られるM(磁化)-H_extヒステリシスを「みかけの磁化特性」と呼び,この見かけのヒステリシスをM-有効磁場Hヒステリシスにする方法が述べられています。これを「ずれ補正(shearing)」というらしい。
やっぱり有効磁場なんですね。
(しかし,たとえば牧野編「永久磁石 その設計と応用」(アグネ技術センター,1966)なんかは,「外部磁場」と曖昧な言葉を使いつつ,どう読んでも外部印加磁場のままで話が進んでいる)
※この増田・内山著「磁性体材料」はいい本ですね~。かなりしっかりと曖昧さなしに書いてあります。
確かに,島田寛・山田興治編「磁性材料―物性・工学的特性と測定法」(講談社サイエンティフィク,1999)では最大エネルギー積の説明のところで(97ページ)
「…動作点(註)での磁束密度Bwと有効磁場Hwの積の絶対値|Bw・Hw|をエネルギー積と呼ぶ。この値は図3.15の灰色部分の面積となり,磁石が外部に作る静磁エネルギーの2倍を与える。Wの位置を変化させると,エネルギー積も変化し,ある点で最大となる。このときの値を最大エネルギー積(BH)maxと呼ぶ」
と書いてあります。(図3.15は省略)
(註)動作点Wとは,「永久磁石が実際にとある磁化状態にある点」のことだとぼくは解釈しています。目の前にある永久磁石が必ず最大エネルギー積を与える磁化状態にあるとは限りませんものねぇ。
おお,ここで「磁石が外部に作る静磁エネルギーの2倍」と書いてある。
…しかし,厳密にはこれは正しくありません。前述したように次元がエネルギー密度なんだから,エネルギーじゃないでしょ。あとで示すように,これははっきり言って間違いです。
結構いい加減だね,みんな。
ということで,いろいろと磁性材料の本をぱらぱら読んでみましたが,内山・増田以外の本はかなり適当だなぁ,という印象を持ってしまいました。
これはやっぱりちゃんと解析できる例を挙げなければいけないということで,内山・増田192~195ページに準拠して検討してみます。数式が出てきます。数式をテキストで書くのは面倒くさいので,図でごまかします。
(ページ1)

(ページ2)

(ページ3)

この解析から分かることとして,外部の磁場のエネルギー量を計算すると,確かにそれは内部の磁場(この場合印加磁場はないので反磁場のみ)および磁束密度の積に比例するということ。そしてエネルギー積はエネルギー密度の次元をもつということも分かります。
であるからして,「最大エネルギー積=磁気エネルギー」というのは,かなり割り引いて考えれば,正しい。
にしても,永久磁石って面白いですね。そこに置くだけで周りのエネルギー状態を高くすることができるわけですから。自然はエネルギーの低い状態を常に好みますから,これはなかなかまれな事態です。このエネルギー上昇はどこから来たのか?
それは,磁性体をもっと仔細に検討する必要があるでしょうけど,そこまでの余裕はないので,適当な議論で済ませます。
消磁された強磁性体は,外部磁場なしでは磁区がばらばらな状態が最低エネルギー状態ですが,外部磁場を印加すると細かい磁区が揃って単一磁区(=飽和磁化した永久磁石)になった状態の方がエネルギーが低いため,磁化します。
この状態は磁場なしでは高エネルギー状態なので磁場を切ると中間状態のない磁性体なら熱揺らぎによってまた細かい磁区に分裂して行きますが,なんらかの工夫(結晶構造や不純物の添加)によって熱揺らぎに勝って不安定な状態である単磁区状態を保ち続けさせることができます。
ここで磁区がばらばらな状態からどれだけ不安定な状態を保つことができたかを表すのが最大エネルギー積と言ってよいのではないでしょうか。
(この議論にあまり大きな自信はありません)
ではなぜ永久磁石材料が違うと最大エネルギー積が異なるのか。これはヒステリシス曲線が物質によって違うからです。ではなぜ物質によってヒステリシス曲線が違うのか。これは難しい問題です。個々の物質の構造や磁化の反転機構などはこれがまた難しい物質科学の問題です。
いずれにしても,今検討している「磁気と生体」本文に正しく書かれているように,最大エネルギー積の大きい磁石と小さい磁石を比べた時に,最大エネルギー積が大きい方がより小さい体積で同じ強さの磁束密度を発生させることができます。
もっとも,磁石の強さを最大エネルギー積だけを指標にして見ると,サマリウム・コバルト系磁石の20Mガウス・エルステッドよりもネオジム系磁石の35~55M[3]ガウス・エルステッドの方が大きいのですが。
[3] 日立金属の2002年6月18日のニュースリリース。
さて今のところ,この「磁気と生体」シリーズでは「エネルギー」という言葉の濫用は見られませんが,うさんくさい磁気治療器の解説部分で「磁気のエネルギーが血液中のイオン解離を促進し…」のような文章を見ると,
「電解質中でイオン解離していない分子を解離させるためにどれだけエネルギーが必要だかご存知ですか?物にもよりますけど,解離平衡状態にある電解質でそれをするってことは,電気分解を発生させるということではなく,プラズマを作るということと同じですよ…そもそも静磁場は仕事をしないので,磁場の持つエネルギーを他のものに転換することはできないんですよ」
と突っ込みたくなります。
世の中には取り出せないエネルギーってのもたくさんあるんです。
どうも何かと「エネルギー」という言葉を拡大解釈する人が多いので,不愉快です。
ちなみにすげー細かいことですけど,「磁場が鉄球を吸引して吊り上げる」のは磁場が仕事をした結果だと思っている人がたまにいますが(深野一幸先生とか…と思ったら深野先生は『鉄球が重力に逆らっているような状態を磁石が保てるのは,空間からエネルギーを吸収しているからだ!』というもっと無茶な主張でした),それは誤解です。
鉄球が磁石に引き寄せられるのは,その方がポテンシャルエネルギーの低い状態であるからであり,そのポテンシャルエネルギーは引き寄せられる際の運動エネルギーにすべて転換されて,磁石と衝突した瞬間,お互いの表面付近の分子の振動に変換され,「カキーン」という音や振動,および熱になります。これは磁場が仕事をしたわけではありません。
今回はまた大してツッこんでないのに長くなったなぁ。。。
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