いよいよ第1回「磁気と肩こり豆知識」」の最後の段落。
「「窮すれば通ず」ということわざがあるが、まさにハイパワーの磁気治療器は、磁気欠乏(不足)症候群の現代人を救うために、生まれるべくして生まれたもの。磁気治療など効くものかなどと思い込んでいるガンコな頭をまずほぐして、とにかく試用してしてみることをご推奨する。あらゆるこりやストレスに速効ありとはいわないが、かなりの高確率で驚異的な効果を発揮していることは、まぎれもない事実なのだ。」
あー,ついに「ガンコ」と言われてしまいましたな…
まあぼくの場合「効くものかなどと思い込んでいる」わけではなくて,このシリーズの科学的価値がひどいということと,そもそも磁石が肩こりに効くという命題の科学的立証が不十分だと言っているのですが。
それにしても「とにかく試用してみることをご推奨する」ってのはものすごく余計なお世話ですね。残念ながら健康食品とか化粧品とかのネットワークビジネスを勧めてくる迷惑千万な人と言っていることが同じです…
「とにかく使ってみてよ,全然違うんだからぁ!!…すぐには効果出ないかもしれないけど,最低ひと月はつかってみてぇ。肌もつるつるよぉ~~」
…いりません。
「かなりの高確率で驚異的な効果を発揮」というのも,非常に困りますね。
「磁気と生体(4)」で述べたように,永久磁石の治療効果に関する臨床医学的な文献を調べる分には結果が矛盾していて驚異的な効果を発揮しているようには見えませんし,ましてや「まぎれのない事実」などとは到底言えません。紛れだらけです。
また,「「フレミングの法則」で血行を促進」の節のように,あるいはこの「磁気と生体」シリーズ全体のように,いかにも科学的根拠があるような説明をするほど科学に立脚した文章を目指しているのなら―まあ,「サイエンスストーリー」を標榜しているのだからそのつもりなんでしょうけど―「高確率で驚異的な効果を発揮」なんて言い方はできないはずです。
「このテレビはかなりの高確率で電源が入ります」
「この車はかなりの高確率でブレーキが効きます」
とか言われてそのテレビや車を買いますか?
…ぼくは買いません。
もし電源が入らなかったら,もしブレーキが効かなかったら,それはどこかに欠陥があり,どこかが故障しているのでしょう。
すべての人が同じように推察するかどうか分かりませんが,ぼくはそう推察します。だから買わない。それが合理性というものです。
テレビや車は高度な科学技術の集まりであり,正しく作られた回路は電圧をかければ望み通り作動するし,適切に摩擦を制御すれば動いているものは止まります。
これらの科学技術の背後にある物理法則は,状況が揃えば規定している現象が100%起こります。そこに「高確率で起こる」というような生起確率云々の入る余地はありません。
「フレミングの左手の法則」はかなりの高確率で力を生み出すんですかね?
磁気治療の効果について効いたり効かなかったり結果が混乱しているのは,再現性のある結果が得られるような状況がまだ分かっていないからです。
科学的なメカニズムが云々という話ができる段階ではないのだから,意味の分からない無茶苦茶な文章を並べ立てるべきではないし,科学的根拠がなんであるかも分からない人が説明を試みるべきではない。
そもそもそんな無価値で荒唐無稽かつ詭弁にあふれた疑似科学的説明をする前に,磁気治療にどれほどの効果があると言えるのか,臨床医学的研究に関してももっと適切に紹介すべきです。
※「磁気治療の科学的なメカニズムについてはまだ分かっていない」という文章をみることがあります。この文章は節度のある文章で良いのではないかという向きもあるかと思いますが,この文章には「磁気治療には効果がある」という前提があるので,駄目です。事実ではないことに根拠は存在しません。
いや分かっています。言いすぎています。ただ「ガンコ」とか不当なこと言われて頭に来ただけです。
ですが,こういう言い方を平気でするところからも,このシリーズがサイエンスとは程遠いひどいものであることが明白だとぼくは思います。
追記:人間の合理性への志向および物事に対して合理的かどうかを感じる感受性は,人間が幾多の進化を経て現在に至ることができた重要な要因だとぼくは思っています。
その意味で人間は例外なく合理的です。
ぼくは,科学で飯を食っているということも多分にあることはもちろん認めますが,個人的な思い込みを優先させるために合理性と合理性の存在を否定することは非常に馬鹿げていると思っています。
あ,さらに追記すると,もちろんこのシリーズが合理性を否定しているとは思っていません。ただ「それが合理性というものだ」とか言うと,過剰に反発されることが多いので,検証とは関係なく長々と注釈を書いてしまいした。
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