魅惑のサイエンスストーリー「磁気と生体」検証シリーズ。
第1回「磁気と肩こり豆知識」続き。
いや~,やっと第1回の最後の節だよ。やれやれ。
検証シリーズ第1回から3カ月近く経ってますねぇ。検証シリーズ中でやると言ってやってないことも結構あるな,と反省しつつ。
最後の節のタイトルは
「■現代人に不足する磁気を補給」
…このタイトルも意味不明ですね。へぇ~,磁気って補給できるものなんだー
最初の段落
「しかし、医学研究者たちは、現代人の「磁気欠乏(不足)症候群」を声高に警告している。」
ふーん,「磁気欠乏(不足)症候群」ってのは医学研究者たちによって声高に警告されてきたそうですが,ぼくは初めて聞きました。
新型インフルエンザに対する警告は昨今どこでも聞いておりますが。
だいたい,「医学研究者たち」って誰ですか?
まあ,どなたがこんなことを言い出したのか分かってはいます。(「磁気と生体」シリーズ第2回にこの「医学研究者」ってのが誰だか名前が出てきます。)
ここでは,この「磁気欠乏(不足)症候群」とやらが世間にどれだけ知られているのか,グーグル先生に聞いてみましょう。(2009年6月15日時点)
(1)「”磁気欠乏症候群”」…172件
(2)「”磁気不足症候群”」…143件
(3)「”過敏性腸症候群”」…180,000件
・・・どうやら警告の効果はあまりないようですね。
さて,次に行きましょう。
「鉄筋・鉄骨コンクリートのビルで仕事をし、マンションで生活し、電車やマイカーで通勤するという現代生活は、まるで四六時中、鉄箱の中にいるようなもの。これでは地磁気が鉄に吸収されてしまって、人体への作用が小さくなってしまう。」
この文章の中で意味が分からないのは「地磁気が鉄に吸収されて」という部分。
「吸収」ってなんですか??
電場の場合,電気力線を書いた場合にプラスの電荷から発生して,マイナスの電荷に吸収するように書くことができ,これを吸収と呼ぶことができます。しかし電場と違って,磁場には真性の「磁荷」が存在しないので,その意味で磁場が吸収されることはあり得ません。
より正確には透磁率の違う物質の境界面では分極磁荷が誘起されるとして,磁荷を導入して記述することが可能であり,結果として記号Hで通常表わされる「磁場」は不連続になることもあり得,電気力線と同様に磁力線が吸収されたように記述することは出来ますが,記号Bで通常表わされる「磁束密度」は連続のままなので,磁性体があろうがなかろうが磁束線はどこでも連続です。初めも終わりもありません。必ず閉じた曲線です。
また,真性の磁荷は存在しないので,このような境界面以外で磁力線が分断されることはありません。
地磁気のような一様磁場中に鉄の箱を置いた場合,空気に比べて鉄の透磁率は高いので磁束線が鉄の中をより通りやすくなって箱を構成している鉄板の内部の磁束線は密度が高くなり,結果として箱の内部ではほとんど磁束線がなくなります。
これは磁気シールドボックスのやっていることですが,これは鉄が磁気を「吸収」するのとは全然違います。
まあ確かに車の中などでは地磁気は弱くなるでしょうがね…
さて,つぎ。
「詳しくは次号で紹介するが、地磁気はこの200年間で約10%も減少している。おいしい空気や水とともに、磁気は健康になくてはならないものであるが、現代人は自然環境からも人為的環境からも、ますます磁気不足に見舞われているのだ。」
この文章のうち,「地磁気はこの200年間で約10%も減少している」というのは事実です。
しかし「東京に比べ赤道上では地磁気(全磁力)は約20%減少する」というのも事実です[1]。…ここの文章とは関係ありませんが。
[1]国立天文台編「理科年表 平成21年版」(丸善,2009)地学202(766)ページ。
この点についてはぼくも詳しくは次号で紹介します(次号じゃないかもだけど)。
そのあとの「磁気は健康になくてはならないもの」発言は失笑するしかありませんが,おいしい空気や水は確かに健康になくてはならないものだよねー
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