さて,魅惑のサイエンスストーリー「磁気と生体」について,書かれていることを検証するシリーズです。
実際に検証に移る前に,なんでまたこんなことを始めたかの背景から。
…すいません,遠回りしてます。
磁気治療器,特に永久磁石をお灸みたいにはり付けるタイプの治療器については,大学院生の時に,当時受け持っていた授業の学生から「ああいうグッズには効能はあるのか? 臨床医学的・科学的に検証されているのか?」と質問されたことがありました。専門じゃないのですぐには答えられず,時間をもらって少し文献調査をしました。
そのときは肯定的な結論を出している論文,および否定的な結論を出している論文を数本調べて,肯定的な結果を出している論文には実験デザインに不備があるという指摘があるとして,概して医学界の趨勢としては否定的である旨を,その学生さんに答えました。
また,個人的な印象として,大して強いとも言えない静磁場(80~120ミリテスラ)が人体に影響を与えるとは思えない,と伝えました。そんなことがあったらMRI(1テスラ=1000ミリテスラ程度の静磁場を用いる)で正確な診断なんてできないじゃないか,と。
それから,しばらくその話題から遠ざかっていました。
しかし,今回とあることから,このTDKさんのページ上の問題あり過ぎな記事にたどり着き,この磁気と生体の関係に関して再度徹底的に検証してみようと思ったわけです。
それはどんなきっかけだったのか。
…はっきり言って,すごいくだらないです。
それがまた何かっつーと,陣内智則と藤原紀香の離婚のニュースなんですな。
なんで藤原紀香と磁気治療器?というところですが,このニュースを聞いた時,そういえばどこかで藤原紀香が風水に凝っているという記事を読んだなぁ,と思い出したのです。
んで,風水についてちょっと調べてみようかな,とか思って,とりあえずWikipediaでも読むか,って該当項目を見ると,「ちなみに,現代における風水は,地磁気と人体の関係を追及している」とか書いてあって,いきなり「はぁぁー??!!」となったわけです。
「地磁気と人体の間の関係ってなんよ?…ていうか,なんにちなんでいるわけ??!」と。ぼくのスケプティックブースターを点火させたわけです。
(にしても,Wikipediaの風水の項目はやけに肯定的な立場ですね。そうなると,以前書いた「地域の風水に影響を及ぼす懸念がどうたら」というのも,諧謔精神ではなく本気でそう書いているのかもしらん)
んで「地磁気+風水」とかで検索かけてみるとたくさん引っかかりますけれども,いろんな「地磁気と風水」の関係について肯定的なサイトで,「地磁気,というか磁気は人体に様々な影響を与えるのよん」という同じ(ような)文章を何度も読まされました。
さらに,様々な磁気パッドやら磁気ネックレスやら磁気リストバンドやらを売っているサイトにも,まったく同じ(あるいは同じような)文章がたくさんあるではないですか。
こりゃあ,どこかに大元の出典があるな,と調べた結果,このTDKさんのサイトにたどり着いたということです(まあたいして検索しまくらなくてもすぐに見つかりますが)。
そこでシリーズの記事を一通り読んでみたら,内容のあまりの偏りっぷりに驚いた。
そして各記事をイラっとしつつも楽しんで読みながら,ぼくは「これは問題だな」と思いました。それは,これらの記事が磁気治療器販売業界の商品に「(TDKという大会社による)科学的な裏付け」を提供しているらしいという現状です。
もちろん,TDKさんは自社でもそのような磁気治療グッズを販売されていて,科学的な裏付けが必要なのはわかりますが,これらの記事は科学的読み物としてはひどい代物で,まったく裏付けになっていない。
さらにそれにも関らず,TDK以外のメーカがこの記事の果たしている何かに便乗している感は否めない。
(この点,いずれ書く予定ですが,ピップトウキョウおよびピップフジモトは非常に慎重というか,分かっていないことは「分かっていない」と率直に書くなど,好感すら抱かせる態度を示しています。老舗の自信を感じさせます)
なんでTDK以外のメーカがこの「磁気と生体」シリーズの記事を無批判に引用(あるいは多少改稿して引用)するのか,その動機には二つの推測がありえて,一つは
「大会社がこうやって証明してくれているのだから,やはり磁気治療グッズの効能には科学的根拠がある」
と純粋な気持ちで引用しているか,もしくは
「一般の人々は科学的に妥当かどうかなんてどうせわからないだろうけど,科学的な雰囲気の何かそれらしいこと書いておけば安心するだろう,おぉ,ちょーど良い記事があるじゃん,これ使おう」
という悪しき性根があるか,どちらかだと思われます。
このいずれの態度も,大問題です。何度も書いているように,これらの記事は科学的裏付けを与えるようなものではない。
かと言って,この記事を目にした時点では,科学的文章に関する方法論以外の点について詳細な検討ができるほどぼくに知識があるわけでもありませんでした。
だから,徹底的に調べてみよう,と思い立った次第です。
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