第1回「磁気と肩こり豆知識」続き。
「■交感神経を高ぶらせるストレス社会」
この節は「こり」の発生する理由を「ストレスの多い現代社会」に関係づけるよくある話なので,どうでも良いです。
ただ,やたらと交感神経系をワルモノ扱いするところは「この筆者,交感神経を悪いものだと思ってないか?」と不安を感じさせます。
交感神経がなかったら,生物の進化なんてなかったゾ。
ぼくは得意先(共同研究先の企業さん?あるいは測定機器の業者さん?物品納入商社の営業さん?)から電話がかかってきても心臓の拍動が高まったり筋肉が緊張したりはしませんがね。
さて,次の節に移りましょう。次の節は,
「■「フレミングの法則」で血行を促進」
…またしてもいきなり,これです。
これは…笑うしかないなぁ。
まず指摘しておくと,この筆者がどう考えているか分かりませんが「フレミングの法則」は物理法則ではありません。
電磁気学には「クーロンの法則」「ファラデーの法則」などなどいろいろな法則がありますが,これらは物理法則です。
しかし,「フレミングの法則」はこれらの法則と同じ意味での法則ではありません。
これは英語を見ればわかります。
フレミングの法則は英語で「Fleming’s Left (あるいはRight) Hand Rule」で,「rule」つまり「規則」のことです。これに対してクーロンの法則は「Coulomb’s Law」で「law」であり,自然法則を意味します。
この「フレミング(左手)の法則」はフレミングさんがローレンツ力の方向を覚えるため,もっと一般的に言うとベクトルの外積の方向を覚えるために考案した方法=学生さん方への教授法です。
(ちなみに,ぼくの手元にある大学学部向けの電磁気学の教科書を何冊か見たところ,フレミングの法則を載せている本はありませんでした…と思ったら中山正敏著「電磁気学」裳華房に「フレミング右手の法則」が出てきました。でも,「外積を覚えておく方がはるかに便利」と書いている)
この節のタイトルは「「フレミングの法則」で血行を促進」となっていますが,ベクトルの外積の方向の覚え方が血行に影響を与えるはずがありません。
このタイトルからしてこの著者の物理学の知識および理解に多大な不安を覚えざるを得ません。
にしても,誰だ,「Fleming’s rule」を「フレミングの法則」と日本語訳したバカ者は…
これが「フレミングの規則」とか「フレミング先生のやさしい“電・磁・力”の覚え方」だったらこんな誤解をする奴はいなくなるのに。
さてそれはともかく,このタイトルのダメさ加減だけでそれ以下の文章は検討する必要がないなぁとだらけそうになりましたが,とりあえず読み進めます。
「身につけているだけで血行を促進して、筋肉のこりがほぐれ、自律神経のバランスも回復する。それが磁気治療器である。だが、磁気でなぜ血行がよくなるのか。それは人体の電磁気的現象と深く関連している。」
何回も指摘しているように,磁気で血行が良くなってコリが治るという科学的な立証は十分ではありません。
「脳波、心電図、筋電図など、生体にはさまざまな電気現象がみられるが、いうまでもなく電気と磁気は密接な関わりがある。磁気は生体にまったく作用しないと考えるほうがむしろおかしい。では磁気が人体に作用するメカニズムは、いかなるものか。 」
この議論は非常に詭弁のニオイがします。個々の事実はそのとおりなのですが,全体がおかしい。また「磁気が人体に作用する」ことを詳しい説明なしに自明な前提にしているところがすでにおかしいのですが,まあ譲ります。
最後の「磁気は生体にまったく作用しないと考えるほうがおかしい」というのは,だからと言って「磁気治療器が有効」とはならないので言い方は不快ですが,確かにそのとおりです。
次の文章は注意深く検討する必要があります。(本当はないんだけど)
「血液成分の中には、プラスイオンとマイナスイオンに電離するものが含まれている。これが血管中を流れるということは、電流が流れることに等しい。ここに磁石によって磁場を加えると、「フレミングの左手の法則」により力が発生する。この力がイオンの流れを活発にし、血液の流れをよくすると考えられている」
の検証に関してはちょっと長くなってしまったので,次回。
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