2009年4月27日月曜日

磁気と生体(6)修正

「磁気と生体(6)」に修正があります。

「皮膚の表面温度の上昇がなかった」という論文として,

H.N. Mayrovitz, E.E. Groseclose, M. Markov, A.A. Pilla
Effects of Permanent Magnets on Resting Skin Blood Perfusion in Healthy Persons Assessed by Laser Doppler Flowmetry and Imaging
Bioelectromagnetics 22, 494-502 (2001).

を紹介しましたが,この中で実験で用いられている永久磁石として

「実験に用いられている磁石は, 0.1テスラ(1000ガウス)の磁束密度をもつ45×22mmの大きさのディスク状の磁石です。実際に商品として売られているものだそうです。実験は二重盲検法で行われており,シャムは同じ見た目・大きさ・重さの非磁性セラミックとのこと。」

と紹介しましたが,これは間違っておりました。よくよく読むと,磁石は2種類使っていて,

(1)一つは,28×17.8㎝のパッドの中に,45×22mmの長方形の磁石を16個等間隔に並べたもの
(2)もう一つは,直径4㎝で厚さが1㎝のディスク状の磁石

でした。結構でかい。

磁束密度ですが,

(1)は長方形の磁石については,磁石表面では0.1テスラであるものの,パッド表面では0.05テスラ(500ガウス)
(2)は表面で0.1テスラ

とのことです。

以上,修正です。すみませんでした。

2009年4月25日土曜日

磁気と生体(6)

第1回「磁気と肩こり豆知識」続き。

まだまだ「■磁気治療は古代ギリシアの時代から」の第3段落続き。

「実際、人体表面の温度分布を測定する赤外線サーモグラフィを使って試験してみると、磁気作用は明らかに血行をよくして、体温を上昇させていることがわかる」

これはテレビコマーシャルなどでも良く目にする画像なので,きっと大量に論文などがあるだろうとずいぶん探したのですが,すぐには見つかりませんでした。

やっていそうな先生のページも探してみましたが,やはり見つからず。

しかし,灯台もと暗し。

っていうか,ちゃんと論文読めよ,それにインターネットの力を過信しすぎるなよ,という感じですが,前々回のエントリで紹介した(2)のレビューのReferencesに,文献番号17として,

Kanai S, Okano H, Susuki R, et al.
Therapeutic effectiveness of static magnetic fields for low back pain monitored with thermography and deep body thermometry
J. Jpn. Soc. Pain Clin. 5, 5-10 (1998).


という論文が挙げられていました。

おぉ,サーモグラフィとか書いてあるし,これかー。そこで論文誌を調べてみると書誌情報に該当する論文は,

腰痛に対する磁気による治療効果の検討
金井成行,岡野英幸,薄竜太郎,阿部博子
日本ペインクリニック学会誌, 5(1) : 5-10, 1998.


であるということが分かりました。…あれ,日本語の題名にはサーモグラフィとか書いてないな。

すぐに手に入らなかったので,まだ中身の検討は出来ていません。図書館に複写依頼をする予定です。

ですが,この論文を読まなくても「磁気作用は明らかに血行をよくして、体温を上昇させていることがわかる」に対して「明らかではない」ことを示すことはできます。

例えば,

H.N. Mayrovitz, E.E. Groseclose, M. Markov, A.A. Pilla
Effects of Permanent Magnets on Resting Skin Blood Perfusion in Healthy Persons Assessed by Laser Doppler Flowmetry and Imaging
Bioelectromagnetics 22, 494-502 (2001).


という論文では,21歳から48歳までの16人の健康な女性(平均年齢は27.4±1.7歳)を被験者として,永久磁石(静磁場)が皮膚下の血流状態および皮膚表面温度に与える影響についてレーザードップラー法で調べています。

実験に用いられている磁石は, 0.1テスラ(1000ガウス)の磁束密度をもつ45×22mmの大きさのディスク状の磁石です。実際に商品として売られているものだそうです。実験は二重盲検法で行われており,シャムは同じ見た目・大きさ・重さの非磁性セラミックとのこと。

実験は,磁場を照射して4分ごとに36分まで計測を行っています。

結果として得られたのは,
・磁場照射前に比べて皮膚灌流(skin blood perfusion)に変化なし
・皮膚表面温度も同様に変化なし


つまり,この実験では皮膚の温度の上昇という結果は得られていません。

またWeb of Knowledge上で確認した,現在までにこの論文を引用している17の文献について,それぞれのアブストラクトを読んだところ皮膚温度が上昇したという反例はありませんでした。

(同じMayrovitzらのグループが,85ミリテスラでもやはり皮膚温度の上昇などの効果はなかったと結論した論文はありました)

また,これは別の文献でまだざっとしか読んではいませんが,

S. Ichioka et al.,
High-intensity static magnetic fields modulate skin microcirculation and temperature in vivo
Bioelectromagnetics 21, 183-8(2000).


という論文では,超伝導マグネットで発生させた8テスラ(8000ミリテスラ=80000ガウス)の磁場中に置かれたマウスについて,皮膚の表面温度が下がった(0.5~1℃程度)という結果が得られています。

下がってるじゃん。

1998年の金井らの論文にどのような結論が導かれているか現時点ではまだ分かりませんが,36分間磁場を当てても皮膚の温度上昇は認められていないことからも「明らかに」温度が上昇する,ということはなさそうです。

・・・・・・・・

いや~,にしても,一段落の中に三つも突っ込みどころがあるとは,恐るべしサイエンス・ストーリー…

2009年4月22日水曜日

磁気と生体(5)

さて,第1回「磁気と肩こり豆知識」続き

「■磁気治療は古代ギリシアの時代から」の第3段落続き。

「昭和36年の薬事法施行令の中で、治療器具のひとつとして正式に登録されている。」

これは確かに事実です。施行令の別表第一(第一条関係)の八十一に「磁気治療器」として挙げられています。平成21年1月に改正された施行令でも同様です。

薬事法においては,家庭用磁気治療器は管理医療機器(クラス2)に分類されており(1758 家庭用永久磁石磁気治療器),現在は厚生労働省所管の独立行政法人医薬品医療機器総合機構が医療機器の認証を行っています。

「厚生労働省認可」というのは,この医薬品医療機器総合機構が出している認可のことなんでしょうね。

しかし,この事実はともかくとして,だから何だというのでしょうか。

「国が認めた=効果が実証されている」とでも言いたいのでしょうか?

薬事法施行令に登録があるということは,また,医薬品医療機器総合機構が認可を出したということは,いずれも磁気治療が有効であることの科学的・医学的根拠にはなりません。

もちろん,これらの含みとしては「大規模かつ厳密な臨床試験が行われた上で有効性が確認されたのだから,登録がある,認可されている」となるかと思います。

(にしても,このような文章は詭弁であり,このように行間を読む必要はないのですが,詭弁に対して免疫のない人はこのように解釈してしまうと思います。)

医薬品医療機器総合機構の「医療機器の認証基準に関する基本的考え方について」を読むと,医療機器の認可に際してその機器が使い方を誤ると人体に危害を及ぼすようなものでない限りは,臨床試験が必ずしも行われるわけではないようです。

これは,認可するかいなかの基準としてその機器の危険性の有無を上位に持ってきているためでしょう。危険でも臨床試験の結果,十分に恩恵が得られることが分かったならば適切な管理をするという条件で認可しましょう(使いましょう),危険じゃないなら,メーカさんが効果はあると主張されるなら,それを信じて認可はしましょう,というところでしょうか。

さて,この昭和36年の家庭用永久磁石磁気治療器の認可に際して臨床試験が行われて効果が確認されたのかどうかは残念ながらぼくはわかりません。ですが,前段の「有効性はとっくに確認されて」という言明が正しくない現在の医学界の情勢から,もし行われていたとして,さらに認可に臨床試験による有効性の証明が必要であったとしたら,おそらく認可は下りなかったのではないでしょうか。

まあ,これは単なる推測です。

磁気治療器が厚生労働省の認可を受けているというのは,事実です。しかし,そのことと,磁気治療器に効果があるかどうかは関係ありません。

最後に今回の記事について補足。

この「磁気と生体」検証シリーズでは,これらの記事が「サイエンスストーリー」を標榜している以上,その主張の科学的妥当性について検証していくのが目的です。

したがって,この「磁気と生体」シリーズについて,筆者の個人的信念が表明されている部分に関して価値判断をする場合はその旨明記するつもりです。

ぼく自身は磁気治療法に懐疑的ですが,磁気治療法に効能があるという結果を導いている研究が存在していることについて懐疑的ではないし,科学的に検証することが第一に重要だと考えます。懐疑的であるということは,むやみに否定的であるということではありません。もし十分に検証したのち「どうやら効果がありそうだ」との結論に至れば,それを表明します。

今回取り上げた部分に関しては,科学的な言明でもなければ個人的信念の表明とも言えません。

しかし,この文章は読者に強制的に行間を読ませる非常に悪質な詭弁であるし,この部分が唐突かつ脈絡もなく存在しているということが,これらの文章の「サイエンス」を致命的なまでに貶めているため,強く否定しました。

ぼくは,この一文があったというだけで,この文章は疑似科学・似非科学であると断定してよいと思っています。

2009年4月21日火曜日

そういえば

森先生はボルツマンメダルもらってもおかしくないと思うし,Sam Edwardsにノーベル賞が与えられないのは不満。

磁気と生体(4)

魅惑のサイエンスストーリー「磁気と生体」徹底検証シリーズ。

まず第1回「磁気と肩こり豆知識」から行ってみましょーー

「■磁気治療は古代ギリシアの時代から」

最初の方に関しては,磁気治療の歴史に関する話の枕なので,スルー。
(「下剤として磁石を飲んでいた」ってのは本当かなぁ,と思うけど)

※パラケルススやメスメルのエピソードが出てこないのは,不思議。
⇒Skeptical Inquirerの記事を参照。(James D. Livingston,” Magnetic Therapy: Plausible Attraction?”, Skeptical Inquirer 22(July/August), 1998)

・3段落目。
「磁気治療など、単なる気休めと思っている人が今でもいるが、医学的にその有効性はとっくに確認されていて、」

いきなり,これです。

この第一回目の文章が配信されたのが平成5年(1993年)10月であり,15年以上前です。となると,「とっくに」がそれからどれほど昔を指すのかわかりませんが,少なくともこの時点でも「磁気治療は(医学界でも)コンセンサスを得ている」とこの筆者は述べているわけですね。

これは本当か。

ぼくは「magnet therapy」などをキーワードにして文献検索をした結果,一番最近のレビューおよびメタ解析論文として,次の四点を見つけました。以下,発行順に紹介しています。(3)だけはメタ解析ではありません。

最初の二つは観点が非常によく似ていますし紹介している文献も相当数重なっていますが,それぞれ反対の結論を導いています。

(1) A Critical Review of Randomized Controlled Trials of Static Magnets for Pain Relief
(痛み緩和のための磁石使用の無作為化対照試験の系統的レビュー)
Nyjon K. Eccles
The Journal of Alternative and Complementary Medicine 11, 495-509 (2005).
(代替および補完医療ジャーナル誌)

▶磁石の痛み緩和効果に対してかなり好意的な結論を下しています。
▶紹介されているもっとも古い研究は1977年のHarper and Wrightによるもので[1],つぎは1982年のHongらによるものです[2]。その次は1994年のKimらによるものです[3]。
[1] D.W. Harper and E.F. Wright, Lancet 2, 47-54(1977). 結果は否定的。
[2] C.-Z. Hong, et al., Arch. Phys. Med. Rehabil. 63, 462-6(1982). 顕著なプラシーボ効果。結果は否定的。
[3] K.S. Kim and Y.J. Lee, Kanhohak Tamgu (in Korean) 3, 148-79(1994). 結果は否定的。
▶この研究者は同雑誌に,二重盲検法による磁石の月経困難症(dysmenorrhea)への効果について発表しています(ibid, 11, 681-687 (1995))
▶Jadadスコアの採点を行っています。

(2) Static magnets for reducing pain: systematic review and meta-analysis of randomized trials
(疼痛緩和を低減させるために使用される磁石:無作為化対照試験の系統的レビューおよびメタ解析)
Max H. Pittler, Elizabeth M. Brown, Edzard Ernst
Canadian Medical Association Journal 177, 736-742 (2007).
(カナダ医師会ジャーナル誌)

▶磁石の痛み緩和効果に対してかなり否定的な結論を下しています。
▶Jadadスコアの採点を行っています。
▶人体を被験体として行われた無作為化対象試験という条件で行われた実験に限定しています。
▶紹介されているもっとも古い研究は1982年のもので,(1)のEcclesのレビューにもあるHongらによるものです。
▶その次の検討されている論文は1997年に出版されている二本で,一つはCaselliらによるものです[4]。もう一つはVallbonaらによるものです[5]。
▶いずれ検討しますが,ピップトウキョウによる研究についても,Jadadスコアの採点は厳しく,否定的です。
[4] M.A. Caselli et al., J. Am. Podiatr. Med. Assoc. 87, 11-6(1997). 結果は否定的。
[5] C. Vallbona et al., Arch. Phys. Med. Rehabil. 78, 1200-3(1997). 結果は肯定的。

(3)A Literature Review: The Effects of Magnetic Field Exposure on Blood Flow and Blood Vessels in the Microvasculature
(文献レビュー:微小血管系内血流および血管に対する磁場照射の効果)
J.C. Mckay, F.S. Prato, and A.W. Thomas
Bioelectromagnetics 28, 81-98 (2007)
(生体電磁気誌)

▶このレビューは「こんな研究がありますよ」という文献の紹介なので,個々の結果に対するメタ解析は何もしていません。ただし,磁場による血管系への効果について,なんとなく好意的であることは分かります。
▶紹介している一番古い研究は1986年のものです。
▶結論によれば,紹介した27の研究のうち,4つが磁場照射は血管系に何も引き起こさなかった(効果なし)とあります。
▶また,細胞レベルの効果については,19の研究のうち5つが磁場照射は何も引き起こさなかった(効果なし)とあります。
▶逆を言うと,大多数の文献は何らかの効果があったということになります。

(4)Static Magnetic Field Therapy: A Critical Review of Treatment Parameters
(静磁場治療:施術パラメータの批判的レビュー)
Agatha P. Colbert, Helané Wahbeh, Noelle Harling, Erin Connelly, Heather C. Schiffke, Cora Forsten, William L. Gregory, Marko S. Markov, James J. Souder, Patricia Elmer and Valerie King
Evidence-based Complementary and Alternative Medicine, Advanced Access published Octobar 4, 2007.
(証拠に基づく補完および代替医療誌)

▶これはまた別の視点からのレビューおよびメタ解析で,個々の静磁場治療法研究についてその実験デザイン,特にどのように磁場を与えているか,磁性体の種類・大きさ・極の置き方などなどを十分に検討しているか,についてレビューしています。
▶磁気の生体への影響の有無については言及していませんが,静磁場治療法研究者たちの実験方法についてかなり手厳しい評価を下しています。
▶結論として,紹介している研究のうち61%が,意図した生体組織に磁場が適切に照射されているか検討できておらず,結果としてこれらの文献からは静磁場治療の効果に関していかなる有益な結論も導くことはできない,としています。

ほかに
(5)Magnetic Field Therapy: A Review
(磁場治療法:レビュー)
Marko S. Markov
Electromagnetic Biology and Medicine 26, 1-23 (2007).
という論文もありましたが,これはすぐに入手することができず,中はまだ見ていません。

さてこれらのレビューを読んで(いや実際には読まなくても)わかることは,永久磁石あるいは静磁場を用いた治療法に関して「医学的にその有効性はとっくに確認されていて」とは到底言えないということです。

これだけレビューおよびメタ解析の論文が出ているということ,および,ぼくが読んだ上記4つのレビュー論文のうち,非常に好意的な(1)を除いて「磁気治療に関しては科学的原理・生物学的メカニズム・臨床医学的証拠が不足している(限られている)」あるいは「確立されていない」と書いてあることから考えても,磁気治療が医学界においてコンセンサスが得られている治療法ではないことは明らかです。

次に,(1)および(2)のレビューで,無作為化対照試験が行われた研究として紹介されている文献のうち,もっとも古いものから三つの出版年を書き写しましたが,そのうち,この「磁気と生体」の記事が書かれた1993年よりも前の論文は二本だけ,しかもそのいずれも静磁場を用いた痛みの緩和などの効果について否定的な結論を出している研究です。

非常に好意的なレビュー(1)ですら,1993年以前の肯定的な論文を紹介していないのです。

(無作為化対照試験ではなく,肯定的な結果を与えている研究は1993年以前にもあります)

また,別の例になりますが,上に挙げたレビュー内でも言及されている岡野英幸(ピップトウキョウ),大久保千代次(国立保健医療科学院,当時)のグループは,2003年から2005年の間に数本の論文を発表していますが,ほとんどがラットを用いた研究です。

仮に1993年の段階で
「(磁気医療について)医学的にその有効性はとっくに確認されていて」
というのならば,なぜ10年後に至ってもラットでの実験を行っているのでしょうか??

また,厚生科学研究費補助金を用いて21世紀型医療開拓推進研究事業として行われ,2001年に成果が発表された「科学的根拠(Evidence Based Medicine;EBM)に基づいた腰痛診療のガイドラインの策定に関する研究」(主任研究者・白井康正・日本医科大学名誉教授)の第5章「腰痛に対する物理療法の効果」の中に,永久磁石を用いた研究についての文献考察があり,ガイドラインを示すために必要なエビデンスレベルの評価として,「行わないことを中等度に指示する根拠がある」,またレビューアの意見として,「パイロット研究であるが、医療の一部としてこの治療法を認証するに足るエビデンスは不足している。今後の研究が必要。」と書かれています。

(とは言え,この厚生科学研究では腰痛の磁気治療法についてそれほど真剣に調査したような印象は受けません)

以上のことから「有効性はとっくに確認されていて」などとは到底言えないと結論することができます。この文章ひとつとってもこの著者が非常に恣意的な論理展開を行う人間であることが分かり,正直不快な気持になりますが,ぼく自身の不快さは別として,次の文の検討にうつっていきましょう。

追伸:どんどん調べていくうちに,大体の様相が掴めてきました。また,この著者が何をソースにして,また何を背景にして,どのような論文を念頭に置きながらこれらの文章を書いているかも分かってきました。

その背景には中心人物(物故者)が一人おり,その人の学説を紹介しているページになってしまっているのです。

もう数回後にその名前は出てきます。

2009年4月20日月曜日

磁気と生体(3)

さて,魅惑のサイエンスストーリー「磁気と生体」について,書かれていることを検証するシリーズです。

実際に検証に移る前に,なんでまたこんなことを始めたかの背景から。

…すいません,遠回りしてます。

磁気治療器,特に永久磁石をお灸みたいにはり付けるタイプの治療器については,大学院生の時に,当時受け持っていた授業の学生から「ああいうグッズには効能はあるのか? 臨床医学的・科学的に検証されているのか?」と質問されたことがありました。専門じゃないのですぐには答えられず,時間をもらって少し文献調査をしました。

そのときは肯定的な結論を出している論文,および否定的な結論を出している論文を数本調べて,肯定的な結果を出している論文には実験デザインに不備があるという指摘があるとして,概して医学界の趨勢としては否定的である旨を,その学生さんに答えました。

また,個人的な印象として,大して強いとも言えない静磁場(80~120ミリテスラ)が人体に影響を与えるとは思えない,と伝えました。そんなことがあったらMRI(1テスラ=1000ミリテスラ程度の静磁場を用いる)で正確な診断なんてできないじゃないか,と。

それから,しばらくその話題から遠ざかっていました。

しかし,今回とあることから,このTDKさんのページ上の問題あり過ぎな記事にたどり着き,この磁気と生体の関係に関して再度徹底的に検証してみようと思ったわけです。

それはどんなきっかけだったのか。

…はっきり言って,すごいくだらないです。

それがまた何かっつーと,陣内智則と藤原紀香の離婚のニュースなんですな。

なんで藤原紀香と磁気治療器?というところですが,このニュースを聞いた時,そういえばどこかで藤原紀香が風水に凝っているという記事を読んだなぁ,と思い出したのです。

んで,風水についてちょっと調べてみようかな,とか思って,とりあえずWikipediaでも読むか,って該当項目を見ると,「ちなみに,現代における風水は,地磁気と人体の関係を追及している」とか書いてあって,いきなり「はぁぁー??!!」となったわけです。

「地磁気と人体の間の関係ってなんよ?…ていうか,なんにちなんでいるわけ??!」と。ぼくのスケプティックブースターを点火させたわけです。

(にしても,Wikipediaの風水の項目はやけに肯定的な立場ですね。そうなると,以前書いた「地域の風水に影響を及ぼす懸念がどうたら」というのも,諧謔精神ではなく本気でそう書いているのかもしらん)

んで「地磁気+風水」とかで検索かけてみるとたくさん引っかかりますけれども,いろんな「地磁気と風水」の関係について肯定的なサイトで,「地磁気,というか磁気は人体に様々な影響を与えるのよん」という同じ(ような)文章を何度も読まされました。

さらに,様々な磁気パッドやら磁気ネックレスやら磁気リストバンドやらを売っているサイトにも,まったく同じ(あるいは同じような)文章がたくさんあるではないですか。

こりゃあ,どこかに大元の出典があるな,と調べた結果,このTDKさんのサイトにたどり着いたということです(まあたいして検索しまくらなくてもすぐに見つかりますが)。

そこでシリーズの記事を一通り読んでみたら,内容のあまりの偏りっぷりに驚いた。

そして各記事をイラっとしつつも楽しんで読みながら,ぼくは「これは問題だな」と思いました。それは,これらの記事が磁気治療器販売業界の商品に「(TDKという大会社による)科学的な裏付け」を提供しているらしいという現状です。

もちろん,TDKさんは自社でもそのような磁気治療グッズを販売されていて,科学的な裏付けが必要なのはわかりますが,これらの記事は科学的読み物としてはひどい代物で,まったく裏付けになっていない。

さらにそれにも関らず,TDK以外のメーカがこの記事の果たしている何かに便乗している感は否めない。

(この点,いずれ書く予定ですが,ピップトウキョウおよびピップフジモトは非常に慎重というか,分かっていないことは「分かっていない」と率直に書くなど,好感すら抱かせる態度を示しています。老舗の自信を感じさせます)

なんでTDK以外のメーカがこの「磁気と生体」シリーズの記事を無批判に引用(あるいは多少改稿して引用)するのか,その動機には二つの推測がありえて,一つは

「大会社がこうやって証明してくれているのだから,やはり磁気治療グッズの効能には科学的根拠がある」

と純粋な気持ちで引用しているか,もしくは

「一般の人々は科学的に妥当かどうかなんてどうせわからないだろうけど,科学的な雰囲気の何かそれらしいこと書いておけば安心するだろう,おぉ,ちょーど良い記事があるじゃん,これ使おう」

という悪しき性根があるか,どちらかだと思われます。

このいずれの態度も,大問題です。何度も書いているように,これらの記事は科学的裏付けを与えるようなものではない。

かと言って,この記事を目にした時点では,科学的文章に関する方法論以外の点について詳細な検討ができるほどぼくに知識があるわけでもありませんでした。

だから,徹底的に調べてみよう,と思い立った次第です。

2009年4月18日土曜日

3年日記

の使い勝手の悪さに少しうんざりする…内側の方が書きづらいよ

しかし,これはきっと今までの人生の中で3年も日記を書き続けたことがないからだろう,と反省。

2009年4月14日火曜日

最近

近接場光学(近接場顕微鏡)の勉強中…

自作できればいいけど,まったくもってどっから始めて良いか分からん。

2009年4月3日金曜日

磁気と生体(2)修正

前回のエントリーの中で,

(もちろん,漢方→鍼灸→…→ホメオパシーと,懐疑の程度は全然違いますが。漢方医学に関しては,理論というか人間観・世界観はともかくとして,実績および効能の科学的解明が進んでいるという点を鑑みると,もはや代替医療じゃないし)

はちょっと書きすぎました。

「漢方医学」が「代替医療じゃないレベルに達している」と述べたかったわけではなく,「漢方薬の中で効能が認められているものがある」ということです。

※小青竜湯などは二重盲検法により優位性が認められるという論文がある。たとえば
馬場駿吉他『小青竜湯の通年性鼻アレルギーに対する効果-二重盲検比較試験-』耳鼻咽喉科臨床 88, 389-405(1995)
など。

したがって,漢方薬の中には一般の病院でも処方箋が出るものがあり,その意味で代替医療ではない,ということです。