2009年12月30日水曜日

たった今

FAQをみて気づいたんだけど(ちなみにこれってなんて発音するの?),SPYSEEって誰かが「調査・分析を依頼する」というリンクをクリックしないと自分の名前のページは生成されないわけですよね…

誰だ…

なんだかちょいと怖い気もする(あれやこれや去来するものが…)。

・・・・・

とか言って自作自演だったりしてね。へっ
自分の名前は珍しいので,同姓同名は居ないと思います。

2009年12月23日水曜日

たぶんすでに知られているんだろうけど,発見した。

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点が見える…

と思ったけど,間隔が空きすぎてて無理ですな。

じゃあ画像で

2009年11月24日火曜日

費用対効果

「費用対効果という観点からのみ議論されている」という批判がありますが,ぼくはそんな批判は結構どうでも良くって,ぼくが腹が立つのは,「費用対効果という観点からのみ議論して,削減」という結果を出した連中が,どんだけ基礎および応用科学技術に携わる人たちを「費用対効果という概念の無い連中」と見下してんのか?と言うことです。おめーさんたちこそ,費用対効果の意味を分かってんのかね?

にしても文部科学省宛にメール出す場合って,「がんばれ」というべきか「ふざけんな」というべきか良く分からんね。…いやそもそも「意見」がほしいらしいから,どっちもダメなんだけど。

2009年11月7日土曜日

外積

科学用語の語彙が少なすぎですよ。なんで「外積」が変換できないかな。外戚の方が使わないよ。

コンピュータグラフィックスでクォータニオン使うらしいのに,ベクトル知らんわけじゃなかろうに。最初っから辞書に入れておいてくれてもいいじゃないかー

かー

若者が読むべき本

と大上段に構えてしまいました。あと,「若者」って誰だ?っていう疑問もありますが,まあそれはともかくとして。

今,原田泰著「日本はなぜ貧しい人が多いのか―「意外な事実」の経済学」という本を途中まで読んでいるところですが,この本が滅法面白い。まずは「はじめに」から引用:

「多くの人は思い込みに囚われている…(中略)…例えば,「少年犯罪は増加している,若者は刹那的で貯蓄もしなくなっている,若者の失業は自分探し志向の強い若者の問題である,日教組の強いところは学力が低い,グローバリゼーションが格差を生んでいる,日本は平等な国である,人口が減少がしたら日本は貧しくなる,昔の人は高齢の親の面倒をきちんと見ていた,高齢化で医療費は増える,…(中略)…」などの言説は,事実によっては支持されない。…」(強調はBudori)

この「事実によっては支持されない」という部分がこの本の面白いところで,すごい勢いでデータを引用しながら,巷に流布する「それらしい言説」をすっぱり否定していきます。ぼくは数値データ(統計)を見るのが好きなので,楽しい。「へー」と納得させられるデータが盛りだくさんです。

その如何にも「理系的」と呼ばれてしまいそうな,淡々と非情に進んでいく論説のなかに,ときどき笑ってしまう文章が入っている。

もちろん,この本の中にあるデータの取り上げ方に恣意性が無いとは言えません。始めに結論をおいてから,データを持ってきているかもしれない。否定するデータもあるかもしれない。著者が自覚的にせよ,非自覚的にせよ,それをやっているかどうかはすぐには分からない。それが経済学に依拠した論説の扱いの難しいところです。

しかしそれでもこの本が面白いのは,その「批判できる」という点にもあります。「本当かな?」と思ったらデータの引用もとが明らかになっているので,実際に自分で調べることができるわけです。

…ぼくは調べていませんが。

で,この本を途中まで読んで思ったことは,

「やれやれ,どうもこの国と企業は若者には優しくないらしい」

ということです。例えば,年金。ぼくもそうですけど,払っても帰ってこないと思っている若者が多いと思うんですよね(ぼくが若者かどうかは置いておきますけど,受給年齢がいずれ65歳になるだろうから,あと30年以上はもらえないという意味で若者に近いとさせてください)。少なくとも今の受給者よりも少ないだろうなぁ,と。

まあこれは間違いないでしょう。より深刻な不安としては,どこまで起こりうることか分からないけど,年金制度そのものの崩壊もあります。

でも日本の現在の年金支給額は,物価の高さを考慮しても世界最高水準ですよ。自分たちもこの水準の年金が欲しけりゃ高度成長期なみの経済成長を少なくなりつつあって低所得であえいでいる若者でやれってんですか。無理に決まってるじゃん。だから,いずれ,下がります。これはもう,しょうがない。だったらさっさと水準を下げるべきでしょう。

するとね,うちの親(年金受給者)なんかもそうなんだけど,「今までオレたちゃ一生懸命働いてきたんだ!…だからもらって当然!…だから今すぐに下げるんじゃねー!」とかいうわけです。

そりゃあ否定しませんよ。一生懸命働いてきましたよ。だがこの発言の問題点はですね,今もらっている人は自分が払った以上の額をもらっているという本質的な問題と,「じゃあオレ達今の若者が一生懸命働いてねーってか?!」っていう若者の憤りを生むことです。一生懸命働いてるって。

にしても,今の高齢者とここ20年くらいで高齢者になる人々のどれだけの割合が所得格差の世代比較(および過去との比較)を知っているのかな?…

2004年に30歳未満の人(ぼくも入っている)のジニ係数の上がり方は急激です(本書73ページ)。

著者は「若年層の格差拡大の主因は,若者が正社員になれなかったことだ。90年代から最近まで,若者が正社員になることが難しかったのは経済が停滞していたからだ。小泉改革と格差拡大とは何の関係もない」と喝破しています。

ぼくは小泉さんは嫌いですが,この指摘はもっともだと思いました。

それでもやっぱり,政治は関係ないとは言うものの,バブルが崩壊して少子化がすげー勢いで進んでから,政府の取ってきた施策ってのは,小泉さんとかそのあとに続いた人とか今の人もそうだけど,若者の方はあんまり見てないよ。少なくともこの本の取り上げているデータはそう言っている。

それを改善するためにはどうしたらいいのかというと,やっぱり若い人が選挙に行くしかないわけです。若者向けのしっかりとした政策を持っている政治家を,若者が選ばないといかんのです。

ぼくは特に強い政治的信条もないし,右とか左とか言う分け方はとうの昔にやめてしまったし,宗教は大嫌いだし,そういう意味でも特に支持している政党はありません。

ですが,毎回投票には行く。若い人間は投票しないとまずいですよ。

この本を読んでいてつくづく思いました。若者よ,この本を読んで投票に行き,政治家を若者の方に向かせるか,若者の方を向いた政治家を作るべきだよ。

さもないと,経済も上向かないし,教育もまずいことになりますぜ。

だから,この本は若者が読むべきだ,と思ったわけです。

2009年10月25日日曜日

うへ

まる三か月投稿なし…まあこっそり再開するし。

夏休みを含め液晶学会までまったく暇なし,さらに学会が終わったかと思ったら後期の授業は始まるし。新しいプロジェクトも始まるし。

出張は多いし。振り込みが遅いから手元にお金はないし。火曜日からまた出張だし。

来月初頭は科研費の申請の締め切りだし。書類書かなきゃだし。

11月は二回結婚式あるし。いずれも東京だし。めでたいことですし,ワタクシのようなものをお誘いくださるのはまったく感謝ですし…でも出費がキツイし。

そうこうしているうちにすぐに12月だし。IDWだし。口頭発表だし。

2009年7月21日火曜日

衝撃の事実

関東人が西日本に来てびっくりすることは,

…実のところそれほどないのですが,(同じ日本だし,当たり前か)

今日は最近判明した,関東人には衝撃の事実を二つ。

(1)うなぎ

先日は土用の丑の日でしたが,うちの大学&うちで鰻を食べました。
まあ大学の学食で鰻のかば焼きががっつり出ることにもびっくりだが,鰻そのものについて軽い衝撃。

(脱線すると,うちの大学の学食は年に数回フグの鍋が出る)

それは…

こっちの鰻のかば焼きには頭がついているということ。

…ついつい意地汚くも鰓のあたりまで食っちまうんですが,頭のあたりに長い骨があるんだよねぇ。

(2)ひよ子

わたくしね,『ひよ子』は東京銘菓だとばかり思っておりました。

しかーし,ある日学生と福岡のお土産について語らっていた際,わたくしが

「え,福岡にも『ひよ子』あんの?…『ひよ子』なんて福岡のお土産としては買わないよ,だって東京銘菓じゃん」

と言ったら,

「は?(笑)…何言ってんすか,『ひよ子』は福岡銘菓ですよ(これだから東京人は)」

とあざけられました。…な,なにー,そんなバカな。
あわてて調べてみる。

・・・・・・・・・・・・・

わたくしの負けです。

というわけで,先日福岡に遊びに行った折に,『ひよ子』を研究室のお土産として買ってまいりました。
申し訳ないけど,『通りもん』より断然好きです。
(『通りもん』は牛乳臭くてあんまり好きじゃないです)

2009年7月13日月曜日

HTMLメールが

嫌い。

送る場合ですよ。

なぜなら,デフォルトを解除するのが激しく面倒くさいから。
なんでデフォルトの文字色が青だったりするの?…意味がわからん。

どうしていつもいつもMicrosoftのソフトウェアはいらん縛りを最初から…

あとどうしてもIE使わざるを得ない状況で(アップデートとか)いやいやIE使っているときに,IEがやけに落ちることにもびっくり。

2009年7月11日土曜日

なんと

セブンイレブン弁当の

「横からも切ることができます。」

テープが,見た目はそのまま,横から切ることが出来ないようになったYO!!

今までの剥がし辛さがこれで解Show!!

・・・・

と調子に乗って書いてみたものの,開発者からすると厳しい敗北だよね…

珍しく

ドラマ見てしまいました。「Mr.Brain」。

・・・・・

…最終回でしたが,はじめて見ました(笑)。しかも途中から。

(おぉ,ブログっぽい)

・・・・・

「あー,この階段ねー,いいよねー。でも転んだら痛いよなー,ここ」

とか,

「東京科学博物館」(という名前の設定だっけ)にやたら客がたくさん来ていて,しかも避難するシーンでよりはっきりするのですが,わらわらと逃げていくその客のほとんどが若い女性(だと思う。後姿だから年齢までは分かりませんが)だったりして,

「うーん…それは有り得ん」
「やはりこのキャストのドラマでエキストラを集めるとそうなってしまうのか??」

と思ったり,

「なんか科警研の雰囲気,『特命リサーチ200X』っぽい」

とか,やはり本筋とは関係ないところばかり気になって仕方がありませんでした。

・・・・・・

あ,でも面白かったですよ。木村さんのドラマ嫌いじゃないです。「HERO」も再放送見てましたし。

初回で「右脳・左脳」とか言っていたらしいので,科学考証はかなり残念なモノですが。

この「Mr.Brain」にせよ,以前放送していた「キイナ」にせよ,科学的事実として確立されてないばかりか,むしろ否定されていることをあたかも確立している真実のようにドラマで語るのは良くないですね。

(「キイナ」に関してはぼくは一回も見てないのですが,同居人が教えてくれました。)

そうゆうのが,「弱い信念として入り込む疑似科学」を助長してしまうんだよな。

…とまた,最後はいつもと同じような結論になりました。

2009年7月4日土曜日

人命

良く数学の質問を持ってくる学生がいるのですが,この子が持ってくる問題がいつもいつも難しくて困ります。

学部を出てから10年以上経つとですね,授業でも持ってないと忘れていることが多々あります。

教えている先生によっては,微分積分学の授業で非常にテクニカルな問題を出すんですよね。ノリが大学受験の問題。パズルみたいな問題は嫌いじゃないのですが,なんか勝負性を感じるから嫌です。解ければ勝ち,みたいな。時間の無駄のような気がしてしまいます。

先日は無限級数の値を求める問題だったのですが,リーマン和に書き直して積分で答えを求める方法なんて,そういやそんな方法あったなぁ,という感じです。

あまりに分からないので,

「なんでいつもこんな難しい問題を持ってくるんだ!!…こんなもん出来ようが出来まいが数学の理解とは何の関係も無い!!…解けなかったら何がどうなるんだ?!!」

と反語表現で悪態をついてしまいました。

するとその子はしばらく困った顔で考えた挙句…

・・・・・・

「…じ,人命がかかっているんです!…」

と一言。

・・・・・・

えー

…じゃあ,必死で解かざるを得ませんね。

2009年6月26日金曜日

くそう

以前にとある関係先から

「これってスパムですか?」

と質問されて確認のために転送してもらったメールがあって,確かにそれはUPS(アメリカの貨物会社)を騙るスパムだったのですが,zip添付ファイルがついておりまして,悪質なことにトロイの木馬が入っていました。

確認して「スパムですねぇ」と問い合わせもとに伝えた後,そのメッセージをさっさと削除すればよかったものの,ずっとそのままにしておりました。

昨日カスペルスキーに完全スキャンをさせてたら,「Thunderbirdのインボックスの中にトロイの木馬があるよ!!…でも駆除できないよ!!」って(当たり前だけど)警告してきたので,そういや削除してなかったなぁ,「じゃあ削除で」とお願いしたら…

インボックスごと削除しやがった…

おかげさまで,これまでいただいたメールがすべて消えてしまいました。

まあGmailのほうにすべて転送していたので,実質的な被害はなかったのですが,やらかしました。

メーラーの構造を理解していればそんなことしなかったのに…やっぱりメーラーで手動で削除すべきでした…

2009年6月16日火曜日

磁気と生体(11)

いよいよ第1回「磁気と肩こり豆知識」」の最後の段落。

「「窮すれば通ず」ということわざがあるが、まさにハイパワーの磁気治療器は、磁気欠乏(不足)症候群の現代人を救うために、生まれるべくして生まれたもの。磁気治療など効くものかなどと思い込んでいるガンコな頭をまずほぐして、とにかく試用してしてみることをご推奨する。あらゆるこりやストレスに速効ありとはいわないが、かなりの高確率で驚異的な効果を発揮していることは、まぎれもない事実なのだ。」

あー,ついに「ガンコ」と言われてしまいましたな…

まあぼくの場合「効くものかなどと思い込んでいる」わけではなくて,このシリーズの科学的価値がひどいということと,そもそも磁石が肩こりに効くという命題の科学的立証が不十分だと言っているのですが。

それにしても「とにかく試用してみることをご推奨する」ってのはものすごく余計なお世話ですね。残念ながら健康食品とか化粧品とかのネットワークビジネスを勧めてくる迷惑千万な人と言っていることが同じです…

「とにかく使ってみてよ,全然違うんだからぁ!!…すぐには効果出ないかもしれないけど,最低ひと月はつかってみてぇ。肌もつるつるよぉ~~」

…いりません。

「かなりの高確率で驚異的な効果を発揮」というのも,非常に困りますね。

「磁気と生体(4)」で述べたように,永久磁石の治療効果に関する臨床医学的な文献を調べる分には結果が矛盾していて驚異的な効果を発揮しているようには見えませんし,ましてや「まぎれのない事実」などとは到底言えません。紛れだらけです

また,「「フレミングの法則」で血行を促進」の節のように,あるいはこの「磁気と生体」シリーズ全体のように,いかにも科学的根拠があるような説明をするほど科学に立脚した文章を目指しているのなら―まあ,「サイエンスストーリー」を標榜しているのだからそのつもりなんでしょうけど―「高確率で驚異的な効果を発揮」なんて言い方はできないはずです。

「このテレビはかなりの高確率で電源が入ります」
「この車はかなりの高確率でブレーキが効きます」

とか言われてそのテレビや車を買いますか?

…ぼくは買いません。

もし電源が入らなかったら,もしブレーキが効かなかったら,それはどこかに欠陥があり,どこかが故障しているのでしょう。

すべての人が同じように推察するかどうか分かりませんが,ぼくはそう推察します。だから買わない。それが合理性というものです。

テレビや車は高度な科学技術の集まりであり,正しく作られた回路は電圧をかければ望み通り作動するし,適切に摩擦を制御すれば動いているものは止まります。

これらの科学技術の背後にある物理法則は,状況が揃えば規定している現象が100%起こります。そこに「高確率で起こる」というような生起確率云々の入る余地はありません。

「フレミングの左手の法則」はかなりの高確率で力を生み出すんですかね?

磁気治療の効果について効いたり効かなかったり結果が混乱しているのは,再現性のある結果が得られるような状況がまだ分かっていないからです。

科学的なメカニズムが云々という話ができる段階ではないのだから,意味の分からない無茶苦茶な文章を並べ立てるべきではないし,科学的根拠がなんであるかも分からない人が説明を試みるべきではない。

そもそもそんな無価値で荒唐無稽かつ詭弁にあふれた疑似科学的説明をする前に,磁気治療にどれほどの効果があると言えるのか,臨床医学的研究に関してももっと適切に紹介すべきです。

※「磁気治療の科学的なメカニズムについてはまだ分かっていない」という文章をみることがあります。この文章は節度のある文章で良いのではないかという向きもあるかと思いますが,この文章には「磁気治療には効果がある」という前提があるので,駄目です。事実ではないことに根拠は存在しません。

いや分かっています。言いすぎています。ただ「ガンコ」とか不当なこと言われて頭に来ただけです。

ですが,こういう言い方を平気でするところからも,このシリーズがサイエンスとは程遠いひどいものであることが明白だとぼくは思います。

追記:人間の合理性への志向および物事に対して合理的かどうかを感じる感受性は,人間が幾多の進化を経て現在に至ることができた重要な要因だとぼくは思っています。

その意味で人間は例外なく合理的です。

ぼくは,科学で飯を食っているということも多分にあることはもちろん認めますが,個人的な思い込みを優先させるために合理性と合理性の存在を否定することは非常に馬鹿げていると思っています。

あ,さらに追記すると,もちろんこのシリーズが合理性を否定しているとは思っていません。ただ「それが合理性というものだ」とか言うと,過剰に反発されることが多いので,検証とは関係なく長々と注釈を書いてしまいした。

2009年6月15日月曜日

磁気と生体(10)

魅惑のサイエンスストーリー「磁気と生体」検証シリーズ。

第1回「磁気と肩こり豆知識」続き。

いや~,やっと第1回の最後の節だよ。やれやれ。

検証シリーズ第1回から3カ月近く経ってますねぇ。検証シリーズ中でやると言ってやってないことも結構あるな,と反省しつつ。

最後の節のタイトルは
「■現代人に不足する磁気を補給」

…このタイトルも意味不明ですね。へぇ~,磁気って補給できるものなんだー

最初の段落

「しかし、医学研究者たちは、現代人の「磁気欠乏(不足)症候群」を声高に警告している。」

ふーん,「磁気欠乏(不足)症候群」ってのは医学研究者たちによって声高に警告されてきたそうですが,ぼくは初めて聞きました。

新型インフルエンザに対する警告は昨今どこでも聞いておりますが。

だいたい,「医学研究者たち」って誰ですか?

まあ,どなたがこんなことを言い出したのか分かってはいます。(「磁気と生体」シリーズ第2回にこの「医学研究者」ってのが誰だか名前が出てきます。)

ここでは,この「磁気欠乏(不足)症候群」とやらが世間にどれだけ知られているのか,グーグル先生に聞いてみましょう。(2009年6月15日時点)

(1)「”磁気欠乏症候群”」…172件
(2)「”磁気不足症候群”」…143件
(3)「”過敏性腸症候群”」…180,000件

・・・どうやら警告の効果はあまりないようですね。

さて,次に行きましょう。

「鉄筋・鉄骨コンクリートのビルで仕事をし、マンションで生活し、電車やマイカーで通勤するという現代生活は、まるで四六時中、鉄箱の中にいるようなもの。これでは地磁気が鉄に吸収されてしまって、人体への作用が小さくなってしまう。」

この文章の中で意味が分からないのは「地磁気が鉄に吸収されて」という部分。

「吸収」ってなんですか??

電場の場合,電気力線を書いた場合にプラスの電荷から発生して,マイナスの電荷に吸収するように書くことができ,これを吸収と呼ぶことができます。しかし電場と違って,磁場には真性の「磁荷」が存在しないので,その意味で磁場が吸収されることはあり得ません。

より正確には透磁率の違う物質の境界面では分極磁荷が誘起されるとして,磁荷を導入して記述することが可能であり,結果として記号Hで通常表わされる「磁場」は不連続になることもあり得,電気力線と同様に磁力線が吸収されたように記述することは出来ますが,記号Bで通常表わされる「磁束密度」は連続のままなので,磁性体があろうがなかろうが磁束線はどこでも連続です。初めも終わりもありません。必ず閉じた曲線です。

また,真性の磁荷は存在しないので,このような境界面以外で磁力線が分断されることはありません。

地磁気のような一様磁場中に鉄の箱を置いた場合,空気に比べて鉄の透磁率は高いので磁束線が鉄の中をより通りやすくなって箱を構成している鉄板の内部の磁束線は密度が高くなり,結果として箱の内部ではほとんど磁束線がなくなります。

これは磁気シールドボックスのやっていることですが,これは鉄が磁気を「吸収」するのとは全然違います。

まあ確かに車の中などでは地磁気は弱くなるでしょうがね…

さて,つぎ。

「詳しくは次号で紹介するが、地磁気はこの200年間で約10%も減少している。おいしい空気や水とともに、磁気は健康になくてはならないものであるが、現代人は自然環境からも人為的環境からも、ますます磁気不足に見舞われているのだ。」

この文章のうち,「地磁気はこの200年間で約10%も減少している」というのは事実です。

しかし「東京に比べ赤道上では地磁気(全磁力)は約20%減少する」というのも事実です[1]。…ここの文章とは関係ありませんが。
[1]国立天文台編「理科年表 平成21年版」(丸善,2009)地学202(766)ページ。 

この点についてはぼくも詳しくは次号で紹介します(次号じゃないかもだけど)。

そのあとの「磁気は健康になくてはならないもの」発言は失笑するしかありませんが,おいしい空気や水は確かに健康になくてはならないものだよねー

2009年6月14日日曜日

磁気と生体(9)

ずいぶん間が空いてしまったけど,決して投げ出したわけではないよ,魅惑のサイエンスストーリー「磁気と生体」検証シリーズ。

「■「フレミングの法則」で血行を促進」節,第3段落目「ところで…」以下。

「ところで、10数年前、にわかに第2の磁気治療器ブームが巻き起こったのだが、それは強力な磁気エネルギーをもつ「希土類磁石」が開発され、使われるようになったからだ。なかでも「サマリウムコバルト磁石」の磁気エネルギー(最大エネルギー積という)は20000000ガウス・エルステッド。フェライトの約5倍、アルニコ磁石などの鋳造磁石の約30倍。これは、同じ鉄球を吸引して吊り上げるのに、フェライトでは5倍の体積、アルニコ磁石では何と約400倍の体積を必要とするハイパワーである。強力な磁気エネルギーをもつため磁石を小さくでき、肩・首・腕・腰などに負担をかけずスマートに治療ができる製品が各種開発され、磁気治療はますます広がりをみせるようになった。」

科学的に見た場合,ここはそんなに問題がないです。

唐突に「最大エネルギー積」なんて聞きなれない言葉が出てきますが。

ぼくは磁性および磁性材料の専門家ではないので,この用語を知りませんでした。

なのでちょっと調べてみたところ,最大エネルギー積とは強磁性体のヒステリシス曲線の減磁曲線部分(第2象限。永久磁石の特性を示す)について縦軸の磁束密度と横軸の磁場を掛け算して描いた曲線の最大値で,永久磁石の強さを表す指標の一つだそうです[1]。あとでもっとくわしく紹介します。
[1]例えば,日本材料科学会編「近代磁性材料」(裳華房,1998)1ページ。

式だけ見ると,最大エネルギー積は(B・H)_maxとか書くのですが,B・Hと言えば磁場中で一様に磁化した常磁性体中の磁場のエネルギー密度の(2倍の)式と同じですね。(希土類永久磁石のような強磁性体ではなくて)

ここで本文について一つ難癖をつけるとすれば,「磁気エネルギー」という言葉です。この著者は「磁気エネルギー=最大エネルギー積」として用語を用いていますが,これはおかしい。

まず前述したように最大エネルギー積はエネルギーの次元ではなく,単位体積当たりのエネルギーの次元を持っています。まあでもこれは細かい難癖。

(ぼくがこのシリーズでやっているのは全部細かい難癖の集合が何を示すか,ですが)

また,通常「磁気エネルギー」という用語は静磁場の持つエネルギーを意味します(それでも示す意味が曖昧なため,あまり使用しない用語ではある)。静磁場のエネルギーには,磁性体中の静磁場の持つエネルギーと,磁性体の外にできる静磁場のエネルギーがあります。

サマリウム・コバルト系などの希土類永久磁石は強磁性体であるから最大エネルギー積の表式は強磁性体中の有効磁場の持つエネルギー密度には対応しません[2]。
[2] 平川浩正「電磁気学」(培風館,1968)146~7ページ。

したがって,(最大)エネルギー積は永久磁石自身の内部有効磁場の持つエネルギー密度ではない。ではなんだろう?

そこで,他の本も調べてみました。

たとえば,平賀他編著「フェライト」(丸善,1998)の132ページには,
「これ(註:最大エネルギー積のこと)は単位体積当たりの磁石材料が外部につくりうる最大の静磁エネルギーの2倍に相当する」
「(BH)_MAXは実用上重要な値であり,磁石が外部に作る開磁束量の目安となる」
と書いてあります。

これだけでは良く分かりませんので,もう少し別の本を見てみましょう。

まず,先にもあげた日本材料科学会編「近代磁性材料」((裳華房,1998)1ページ。

「永久磁石の磁気特性は,図1.1に示すB-Hヒステリシス曲線の第2象限の部分,すなわち減磁曲線によって表す。着磁した後の単体の磁石の動作点はこの減磁曲線の1点で示される。ここでの磁界Hは着磁方向とは逆向きで減磁界とよび,左向きを正とする。その縦軸の切片を残留磁束密度とよび,Brと記号する。横軸の切片を保磁力とよび,Hcと記号する。減磁曲線上の各点でのBとHの積BHの最大値をとって,最大エネルギー積とよび,(BH)maxとする。これら3つの値Br,Hc,および(BH)maxが減磁曲線から読み取る磁石特性値である。このうち(BH)maxは着磁した磁石が外部に作る静磁界のエネルギーに比例する量で,永久磁石の性能指数として広く用いられている。」


(図1.1:ぼくの再現手書きです)

ふーむ。なるほど…

「静磁界のエネルギーに比例する量」ってどういう意味かよくわからないけど。どういう風に比例するのか書いてほしいな。

あと,どうもこの本だけに限らず,磁性体についてよく分からないことが一点。

ヒステリシス曲線ということは,外部から磁場を印加した状態での測定結果なわけで,ヒステリシス曲線の横軸は印加磁場と反磁場の和(差でもいいけど)である有効磁場のはず。(上記の引用箇所では単に“磁界”と書いてあって曖昧だが)

しかし,永久磁石ってのは外部磁場なしで用いるものなんだから,外部磁場なしの物性量でその性能を評価すべきなんじゃないだろうか??

そもそもヒステリシス曲線のx軸である磁場は,印加磁場なの?有効磁場なの?

このあたり,多くの本では曖昧です。これは,困る。

増田晋・内山守男著「磁性体材料」(コロナ社,1980)の19~20ページに次のような注釈がありました。

「…表1.2に示した透磁率をはじめ,いろいろのハンドブック,文献に示される磁化曲線,透磁率の値などは,ほとんどすべて有効磁界Hに対するものであり,印加磁界H_extに対するものではないことに十分注意されたい」
(強調はBudori)

そのあとに,実際の測定で得られるM(磁化)-H_extヒステリシスを「みかけの磁化特性」と呼び,この見かけのヒステリシスをM-有効磁場Hヒステリシスにする方法が述べられています。これを「ずれ補正(shearing)」というらしい。

やっぱり有効磁場なんですね。

(しかし,たとえば牧野編「永久磁石 その設計と応用」(アグネ技術センター,1966)なんかは,「外部磁場」と曖昧な言葉を使いつつ,どう読んでも外部印加磁場のままで話が進んでいる)

※この増田・内山著「磁性体材料」はいい本ですね~。かなりしっかりと曖昧さなしに書いてあります。

確かに,島田寛・山田興治編「磁性材料―物性・工学的特性と測定法」(講談社サイエンティフィク,1999)では最大エネルギー積の説明のところで(97ページ)

「…動作点(註)での磁束密度Bwと有効磁場Hwの積の絶対値|Bw・Hw|をエネルギー積と呼ぶ。この値は図3.15の灰色部分の面積となり,磁石が外部に作る静磁エネルギーの2倍を与える。Wの位置を変化させると,エネルギー積も変化し,ある点で最大となる。このときの値を最大エネルギー積(BH)maxと呼ぶ」

と書いてあります。(図3.15は省略)

(註)動作点Wとは,「永久磁石が実際にとある磁化状態にある点」のことだとぼくは解釈しています。目の前にある永久磁石が必ず最大エネルギー積を与える磁化状態にあるとは限りませんものねぇ。

おお,ここで「磁石が外部に作る静磁エネルギーの2倍」と書いてある。

…しかし,厳密にはこれは正しくありません。前述したように次元がエネルギー密度なんだから,エネルギーじゃないでしょ。あとで示すように,これははっきり言って間違いです。

結構いい加減だね,みんな。

ということで,いろいろと磁性材料の本をぱらぱら読んでみましたが,内山・増田以外の本はかなり適当だなぁ,という印象を持ってしまいました。

これはやっぱりちゃんと解析できる例を挙げなければいけないということで,内山・増田192~195ページに準拠して検討してみます。数式が出てきます。数式をテキストで書くのは面倒くさいので,図でごまかします。

(ページ1)


(ページ2)


(ページ3)


この解析から分かることとして,外部の磁場のエネルギー量を計算すると,確かにそれは内部の磁場(この場合印加磁場はないので反磁場のみ)および磁束密度の積に比例するということ。そしてエネルギー積はエネルギー密度の次元をもつということも分かります。

であるからして,「最大エネルギー積=磁気エネルギー」というのは,かなり割り引いて考えれば,正しい。

にしても,永久磁石って面白いですね。そこに置くだけで周りのエネルギー状態を高くすることができるわけですから。自然はエネルギーの低い状態を常に好みますから,これはなかなかまれな事態です。このエネルギー上昇はどこから来たのか?

それは,磁性体をもっと仔細に検討する必要があるでしょうけど,そこまでの余裕はないので,適当な議論で済ませます。

消磁された強磁性体は,外部磁場なしでは磁区がばらばらな状態が最低エネルギー状態ですが,外部磁場を印加すると細かい磁区が揃って単一磁区(=飽和磁化した永久磁石)になった状態の方がエネルギーが低いため,磁化します。

この状態は磁場なしでは高エネルギー状態なので磁場を切ると中間状態のない磁性体なら熱揺らぎによってまた細かい磁区に分裂して行きますが,なんらかの工夫(結晶構造や不純物の添加)によって熱揺らぎに勝って不安定な状態である単磁区状態を保ち続けさせることができます。

ここで磁区がばらばらな状態からどれだけ不安定な状態を保つことができたかを表すのが最大エネルギー積と言ってよいのではないでしょうか。

(この議論にあまり大きな自信はありません)

ではなぜ永久磁石材料が違うと最大エネルギー積が異なるのか。これはヒステリシス曲線が物質によって違うからです。ではなぜ物質によってヒステリシス曲線が違うのか。これは難しい問題です。個々の物質の構造や磁化の反転機構などはこれがまた難しい物質科学の問題です。

いずれにしても,今検討している「磁気と生体」本文に正しく書かれているように,最大エネルギー積の大きい磁石と小さい磁石を比べた時に,最大エネルギー積が大きい方がより小さい体積で同じ強さの磁束密度を発生させることができます。

もっとも,磁石の強さを最大エネルギー積だけを指標にして見ると,サマリウム・コバルト系磁石の20Mガウス・エルステッドよりもネオジム系磁石の35~55M[3]ガウス・エルステッドの方が大きいのですが。
[3] 日立金属の2002年6月18日のニュースリリース。

さて今のところ,この「磁気と生体」シリーズでは「エネルギー」という言葉の濫用は見られませんが,うさんくさい磁気治療器の解説部分で「磁気のエネルギーが血液中のイオン解離を促進し…」のような文章を見ると,

「電解質中でイオン解離していない分子を解離させるためにどれだけエネルギーが必要だかご存知ですか?物にもよりますけど,解離平衡状態にある電解質でそれをするってことは,電気分解を発生させるということではなく,プラズマを作るということと同じですよ…そもそも静磁場は仕事をしないので,磁場の持つエネルギーを他のものに転換することはできないんですよ」

と突っ込みたくなります。

世の中には取り出せないエネルギーってのもたくさんあるんです。

どうも何かと「エネルギー」という言葉を拡大解釈する人が多いので,不愉快です。

ちなみにすげー細かいことですけど,「磁場が鉄球を吸引して吊り上げる」のは磁場が仕事をした結果だと思っている人がたまにいますが(深野一幸先生とか…と思ったら深野先生は『鉄球が重力に逆らっているような状態を磁石が保てるのは,空間からエネルギーを吸収しているからだ!』というもっと無茶な主張でした),それは誤解です。

鉄球が磁石に引き寄せられるのは,その方がポテンシャルエネルギーの低い状態であるからであり,そのポテンシャルエネルギーは引き寄せられる際の運動エネルギーにすべて転換されて,磁石と衝突した瞬間,お互いの表面付近の分子の振動に変換され,「カキーン」という音や振動,および熱になります。これは磁場が仕事をしたわけではありません。

今回はまた大してツッこんでないのに長くなったなぁ。。。

2009年6月1日月曜日

なんとか風な文章

世の中には二種類の人間しかいない。爪をきっちり切る人間と,そうでなく,いい加減に切って済ませる人間と。そして彼らは秘かにお互いいがみあっている。…お互い相手のことをとんでもない,下種な人間だとみなしているんだ。でも誰も口に出してそれを言わない。はじめて会ったときに,互いにちらりと相手の指先を見て,そして判断を下す。敵か,味方か。

2009年5月28日木曜日

磁気と生体(8)補

なんか最近長くて分かりにくいので,磁気と生体(8)に図を足してみました。

随時足していく予定。

(しかし,液討&IDWの受付が始まっているので,そんなことするのはかなりの現実逃避…)

2009年5月12日火曜日

適切な表現

「銀河鉄道の夜」冒頭部分の天体に関する授業の中で,先生が

「そんなら何がその川の水にあたるかと云いますと、それは真空という光をある速さで伝えるもので、…」

という説明をしますが,「真空」のこれほど的確な説明はないといつも感嘆します。

電磁気学や相対性理論を勉強すると,真空がエーテルのような媒質でないことはわかるのですが,何か実体であると考えざるを得なくなります。実際にカシミール効果のような観測可能な効果を生み出しますし。

大学の学部の時,うちの親父がそのころコンノケンイチにはまっていて(失笑)

「光だって波だってんだから,何かを媒質にして振動しているんだろ??」

というべたなエーテル観念を振りかざしてきたので,

「だから媒質なんかないんだって。真空だって。真空はそういうもんなんだよ!」

と逆切れしたことがありました。その後,「銀河鉄道の夜」のこの節を読み返した際は,それまでに何度も何度も読んだはずなのにえらい感動してしまいました。電磁気学(というか電磁波=光)の理解としても正しいし,「真空」なのに「実体」ということも適切に表現している。

別の個所では宗教に関する深い懊悩が書かれていて,それもまたぼくには衝撃的に理解できたのですが,一方で適切な科学理解,もう一方で宗教的苦悩を書き切るなんて,宮沢賢治はすごいなぁとやはり思います。

ちなみに,ぼくは「ブルカニロ博士編」(いわゆる第三次稿)が一番好きです…でも,やっぱり公平にみたら第四次稿が完成度が高いよなぁ…

2009年5月8日金曜日

なかなか

読めない文章というものもあります。

文章の甲乙とかジャンルがどうのというよりも,もっと感情的な意味で。

その一つが戸塚洋二先生のブログでしたが,先般読み始めました…

文章のあまりの明晰さがキツいです。

2009年5月7日木曜日

磁気と生体(8)

魅惑のサイエンスストーリー「磁気と生体」検証シリーズ。

未だ第1回「磁気と肩こり豆知識」ですなー

今日は長いです。ゴールデンウィークに書いてましたしね。調子に乗りました。

「■「フレミングの法則」で血行を促進」 節,第3段落続き

「血液成分の中には、プラスイオンとマイナスイオンに電離するものが含まれている。これが血管中を流れるということは、電流が流れることに等しい。ここに磁石によって磁場を加えると、「フレミングの左手の法則」により力が発生する。この力がイオンの流れを活発にし、血液の流れをよくすると考えられている」

の検証。

まず
「血液成分の中には、プラスイオンとマイナスイオンに電離するものが含まれている」
ですが,プラスイオンとマイナスイオンというものがなんであるかわからないので,意味が分かりません。

もし「プラスイオン」がナトリウムイオンのような「陽イオン」のことで,「マイナスイオン」が塩化物イオン(塩素イオン)のような「陰イオン」のことであるならば,これは確かにそのとおり。

「プラスイオン」「マイナスイオン」は学術用語ではありません。用語は正確に使うこと。

血液は体積分率45%の血球成分(赤血球・血小板・白血球)と55%の血漿成分(液体)からなりますが,このうち血漿成分のほうは9割がた水であり,その水の中にタンパク質のほかに無機塩がイオンとして溶けています。つまり,血漿は電解質です。

※ここで注釈ですが,時折「ナトリウムなどの無機塩」という説明を見ますが,ナトリウムは金属であって,塩ではありません。ナトリウムイオンというのなら,分かりますが。カリウムも金属です。

ナトリウムイオンはナトリウムイオンであってナトリウムではなく,カリウムイオンもカリウムではありません。

こういう説明を書いちゃう人は,どうも化学で言う塩と普通の食塩(塩化ナトリウム)と混同した揚句,塩化ナトリウムのうち塩素イオンが抜けているようです。もちろん,人の血漿中にはナトリウムイオンと全く同量ではありませんが塩素イオンもあります。

そりゃみんな毎日過剰なくらい食塩とってんだもん,そうだよねぇ。(注釈終わり)

ということで,血液中のイオンと言えば,これらの無機塩由来のイオンということになるかと思います。

また,血球成分のそれぞれあるいは一部がイオン化しているのかどうか,また血漿中のタンパク質がイオン化しているかどうかぼくは知りませんし,無機塩が無機塩のまま血液中にあるのかどうかも分かりません。(つまり食塩なら食塩の小さな結晶が血液中にあるのかどうか,ということ)

ですから,ここでは血液中のイオンと言った場合には血漿中の無機塩由来のイオンに限定することにします。もっと正確には生化学を勉強しないといけませんね。勉強します。

さて次に,
「これが血管中を流れるということは、電流が流れることに等しい。」
ですが,

…意味が分かりません。

まず何をもって「等しい」と呼んでいるのか,まったく説明がありません。

ということで,ここで終わりにしてしまってもよいのですが,それではつまらないので勝手に補完して読んでしまうことにします。

(これを「藁人形論法」と言います。詭弁です)

もし,「電解質が“圧力によって”流れる=電流」と考えているのなら,それは正しくありません。

血液という電解質が全体として帯電していない限りは,心臓というポンプが生み出す圧力によって血液が血管中を流れていたとしても,それは電流ではありません。

以下,詳しい説明。

電流には,対流(携帯・運搬)電流と伝導電流があります。

これは微視的な意味での電流(=対流電流)と巨視的な意味での電流(=伝導電流)と言っても良いです。電気回路に流れる電流など,一般的な意味での電流は伝導電流のほうです。

※実はこのあたりのことはあまり電磁気学の教科書に詳しく載っていません。ぼくは太田浩一著「電磁気学の基礎」(シュプリンガージャパン)に準拠して書いています。にしても,この本は素晴らしい!!!

一つの電荷(電子でもイオンでも良い)が並進運動することによっても電流が生じていると言うこともでき,電荷保存の式から電流密度を定義することができます。つまり,電解質中(ここでは血液中)の一個一個のイオンに対して電流を定義することは可能です。

これを,対流(携帯・運搬)電流と言います。

一方で,もう少し大きな時間・空間スケールでこれらの微視的な電荷を平均化(粗視化)し,連続なスカラー場としての電荷密度を定義しなおして,そこから電荷保存の式を用いて電流密度を定義することもできます。

これは,この電気伝導を担う電荷も連続体として扱うことに相当します。したがってその電気伝導性媒体が全体として中性であった場合,その媒体が並進運動をしても電流が流れたことにはなりません。したがってこの電流は外部から電圧をかけないと観測されません。

このような電流を伝導電流と言います。

金属中の伝導電子のように単一のキャリアの場合,伝導電流と対流電流の区別はそれほど意識されません。対流電流を考えても結局伝導電流しか観測されないので,対流電流を考えなければならない状況は特殊な状況だと言えます。

(純粋電子プラズマは対流電流を直接考慮する必要があるかもしれない)

しかし,例えば管の中にある電解質中の帯電コロイド系に圧力と電圧をかけた時の電気伝導を考えた場合,コロイド粒子の対流電流と,バックグラウンドの電解質の伝導電流は,それぞれの電流の時間および空間スケールの分離があるので,意識して取扱いを分ける必要があるでしょう。

一方,ここで考慮している血液の電気伝導のように電解質のみの電気伝導を考える場合は,金属中の電子による電気伝導と同じく,対流電流を考慮しても結局は伝導電流が観測可能な電流になると思います。

(血球成分も考えると,電解質中の帯電コロイドという状況が生じえますが,そうだとしても以下の議論に影響はありません)

いずれにしても,電流(密度)の次元は「単位面積あたりに単位時間に通過する電荷量」です。

もし,ある注目している断面積(たとえば血管の任意の断面)を通過する電荷が,正負等量で同じ方向に流れて行った場合には,通った電荷量はトータルではゼロなので,電流もゼロです。

可動電荷は含んでいても全体として電気的に中性的な媒質が並進運動した場合はこれに該当します。

しかし,外部から電圧をかけた場合,電圧によって生じる電場中を,正の電荷は電場と同じ方向へ,負の電荷は電場とは反対の方向へ移動するため,ある注目している断面積には双方の電荷が逆向きに通過するため,電流が観測されます。

これは当該物質の電気伝導度の大小とは関係なく成立することです。

そういう意味で,血液が全体として帯電していない限りは,心臓からの圧力によってイオンが血管中を並進移動したとしても,それはその方向に電流が流れているということに等しくはありません。

ということは,この筆者は「血液は帯電している」ということを前提としているのでしょうか?

もしそうなら,ぼくは血液が帯電しているかどうか知りませんので,「それならそうでしょうね」というしかありません。

しかし,仮に血液が帯電していたとしても,かなり抵抗は大きいとはいえ人体も電気伝導性の物質ですから,電荷はほとんど身体の表面,つまり皮膚に移動すると思いますが。

結果,ドアノブなんかに触ってアースした瞬間に放電してしまう。つまり,ぱちぱち君ですな。

さて次の文章
「ここに磁石によって磁場を加えると、「フレミングの左手の法則」により力が発生する。」

…これも意味不明です。

まあ「フレミングの法則」は笑い飛ばして,ここはたぶんローレンツ力のことを言っているんだろうと解釈して,じゃあどこに・どう・どのくらいの強さのローレンツ力が発生するのか?

なんの説明もないので,例によって勝手に補完して二つの藁人形を作るとします。

(1)個々のイオンに力が発生する
これは確かにその通り。

ローレンツ力が働いて,電荷つまり血漿中のイオンは血管側壁に向かって動いて行くでしょう。

その結果何が起こるか,まで推測してみることにします。

外部静磁場によってイオンが受けるローレンツ力は十分に強く,また正のイオンと負のイオンの運動エネルギーも十分に高く,他の粒子との衝突による運動エネルギーの損失の結果ローレンツ力が働かなくなってしまう前に,それぞれ逆の側壁に到達して,そこにへばりついたとします。すると,血管を横切る方向に電位差発生…となるでしょうかね。

これは単純な問題ではありません。まず外部圧力による血流がないとします。その状態で血管側壁に電荷が溜まったとすると,血漿は電解質なのでその溜まった電荷を中和するように電解質中のイオンが移動し,側壁付近に電気二重層という電荷不均一層が出来るでしょう。

電気二重層の厚さはナノメートルのオーダーであり,電荷の蓄積によって生じた電位差はこの領域で形成されるので[1,2],結果として血管に垂直な方向(断面方向)の大部分の領域には電位差は生じません。

[1]北原文雄著「界面・コロイド化学の基礎」(講談社サイエンティフィク,1994),94~98ページ
[2] 渡辺正・中村誠一郎著「電子移動の化学-電気化学入門」(朝倉書店,1996),3~5ページ。→この本,具体例が多くて分かりやすいし面白いです。

つまり,血管の断面方向に電位差は生じません。

しかしそこに圧力差(心臓による)によって電解質が流れればまた状況が変わります。

これは今回調べていくうちに初めて知ったのですが,管壁に電気二重層が存在する毛細管中に電解質が流れた場合,流動電位という電位が生じるそうです。

いやー,面白いなぁ。

この流動電位の発生するメカニズムですが,まず圧力差によって血流が生じても側壁の電荷がへばりついたままだとすれば,ポアズイユ流れによって電気二重層のうち拡散二重層の一部が流されて,対流電流となります。これを流動電流と呼ぶそうです。

今考えている外部磁場にさらされた電解質という状況では,血管の側壁は互いに逆符号で帯電しているので,いくら拡散二重層の一部の電荷が流されたとしても,正負のイオンが対称的に流されるとすれば,正味の電流はやっぱりゼロです。

したがって,流動電流を考えてもやっぱりゼロ。

しかし,もしもなんらかの原因でどちらかの符号のイオンがより多く流されれば,流動電流はゼロではなくなります。

さらに,この流されたイオンが下流のどこかにたまれば,血管を横切る方向ではなく,血管の走行する方向に電位差が生じます。これを流動電位(差)と呼びます[3,4]。

[3] H.A. Stone, A.D. Stroock, and A. Ajdari, Ann. Rev. Fluid Mech., 36, 381-411(2004).
[4] Frank H. J. van der Heyden, Derek Stein, and Cees Dekker, Phys. Rev. Lett., 95, 116104(2005).
※注記ですが,これらの論文で考慮されている流動電流は,管の壁全面あるいは両面が同符号の電荷で帯電している状況下での流動電流および電位であって,ここで考えている外部磁場中の電解質の流れとは状況が異なります。


んで,この流動電位の方向に電流が流れる,という状況もあり得るわけです。…これは血流の方向とは逆向きですが。

これらの電気二重層の一部が流されることによる対流電流と,流動電位による逆向きの電流は,外部から電位差を与えなくても発生します。

これはありそうなことにも思えますが,よほど条件が揃わないと生じないでしょうし,流動電位がどのくらいの強さになるかも見当がつきません。

もしこのような説明をされて,その流動電位によって生じる電流が観測するに十分な強さの電流であると立証されれば「血管を流れる血液は電流と同じ」に関して認めても良いです。

まあこの「磁気と生体」の文章をそのまま読んでもそんなことを言っているとは到底思えませんが…

ただひとつ述べておきますが,このぼくが作った藁人形が真実だったからと言って次の文章にはつながりませんし,磁気治療器に効果があるという主張とは何の関係もありません。

(2)血管全体に力が発生する
先に述べたように伝導電流が流れているわけではないので,流動電流が生じない限り血管に力は働きません。

さて最後,
「この力がイオンの流れを活発にし、血液の流れをよくすると考えられている」

残念ながら,やはりまったく意味が分かりません。

前項でも検討したとおり「力」がなんだかわからないので,そのわからないものがイオンの流れを活発にすると言われても,何の事を言っているのかわかりませんし,そもそも「活発」というのもイオンが介在するどういう現象を指しているのかわかりません。

また,仮にイオンの流れが活発?になったからと言って,それが血液の流れが良くなることと何の関係があるのかも分かりません。だいたい血液の流れが良い悪いってなんでしょうか?

なんとなく血漿成分がどうのこうの言うよりも血球成分の流れの方が血行の良し悪しに関係しているような気がするけどな。それにしたって,大動脈と毛細血管では全然スピードが違うし。

まったく意味が分かりません。

さて,以上の検討の結果,

「血液成分の中には、プラスイオンとマイナスイオンに電離するものが含まれている。これが血管中を流れるということは、電流が流れることに等しい。ここに磁石によって磁場を加えると、「フレミングの左手の法則」により力が発生する。この力がイオンの流れを活発にし、血液の流れをよくすると考えられている」

という文章に関しては,一見して物理っぽい用語を並べたてて何かを科学的に説明しているように見えますが,それぞれの文章の意味が全く分からないので,論理的なつながりもなく,何の説明にもなっていません。

「考えられている」ってこんな情報ゼロの文章を確立した事実のように言うのは誤解を招きますね。

ただ,この著者がどんなイメージを持っているかはともかくとして,個々の点について相当行間を補完してみると様々な面白いことがわかったので,大変勉強になりました。ありがとうございました。(?)

2009年5月6日水曜日

磁気と生体(7)

第1回「磁気と肩こり豆知識」続き。

「■交感神経を高ぶらせるストレス社会」

この節は「こり」の発生する理由を「ストレスの多い現代社会」に関係づけるよくある話なので,どうでも良いです。

ただ,やたらと交感神経系をワルモノ扱いするところは「この筆者,交感神経を悪いものだと思ってないか?」と不安を感じさせます。

交感神経がなかったら,生物の進化なんてなかったゾ。

ぼくは得意先(共同研究先の企業さん?あるいは測定機器の業者さん?物品納入商社の営業さん?)から電話がかかってきても心臓の拍動が高まったり筋肉が緊張したりはしませんがね。

さて,次の節に移りましょう。次の節は,

「■「フレミングの法則」で血行を促進」

…またしてもいきなり,これです。
これは…笑うしかないなぁ。

まず指摘しておくと,この筆者がどう考えているか分かりませんが「フレミングの法則」は物理法則ではありません。

電磁気学には「クーロンの法則」「ファラデーの法則」などなどいろいろな法則がありますが,これらは物理法則です。

しかし,「フレミングの法則」はこれらの法則と同じ意味での法則ではありません。

これは英語を見ればわかります。

フレミングの法則は英語で「Fleming’s Left (あるいはRight) Hand Rule」で,「rule」つまり「規則」のことです。これに対してクーロンの法則は「Coulomb’s Law」で「law」であり,自然法則を意味します。

この「フレミング(左手)の法則」はフレミングさんがローレンツ力の方向を覚えるため,もっと一般的に言うとベクトルの外積の方向を覚えるために考案した方法=学生さん方への教授法です。

(ちなみに,ぼくの手元にある大学学部向けの電磁気学の教科書を何冊か見たところ,フレミングの法則を載せている本はありませんでした…と思ったら中山正敏著「電磁気学」裳華房に「フレミング右手の法則」が出てきました。でも,「外積を覚えておく方がはるかに便利」と書いている)

この節のタイトルは「「フレミングの法則」で血行を促進」となっていますが,ベクトルの外積の方向の覚え方が血行に影響を与えるはずがありません。

このタイトルからしてこの著者の物理学の知識および理解に多大な不安を覚えざるを得ません。

にしても,誰だ,「Fleming’s rule」を「フレミングの法則」と日本語訳したバカ者は…

これが「フレミングの規則」とか「フレミング先生のやさしい“電・磁・力”の覚え方」だったらこんな誤解をする奴はいなくなるのに。

さてそれはともかく,このタイトルのダメさ加減だけでそれ以下の文章は検討する必要がないなぁとだらけそうになりましたが,とりあえず読み進めます。

「身につけているだけで血行を促進して、筋肉のこりがほぐれ、自律神経のバランスも回復する。それが磁気治療器である。だが、磁気でなぜ血行がよくなるのか。それは人体の電磁気的現象と深く関連している。」

何回も指摘しているように,磁気で血行が良くなってコリが治るという科学的な立証は十分ではありません。

「脳波、心電図、筋電図など、生体にはさまざまな電気現象がみられるが、いうまでもなく電気と磁気は密接な関わりがある。磁気は生体にまったく作用しないと考えるほうがむしろおかしい。では磁気が人体に作用するメカニズムは、いかなるものか。 」

この議論は非常に詭弁のニオイがします。個々の事実はそのとおりなのですが,全体がおかしい。また「磁気が人体に作用する」ことを詳しい説明なしに自明な前提にしているところがすでにおかしいのですが,まあ譲ります。

最後の「磁気は生体にまったく作用しないと考えるほうがおかしい」というのは,だからと言って「磁気治療器が有効」とはならないので言い方は不快ですが,確かにそのとおりです。

次の文章は注意深く検討する必要があります。(本当はないんだけど)

「血液成分の中には、プラスイオンとマイナスイオンに電離するものが含まれている。これが血管中を流れるということは、電流が流れることに等しい。ここに磁石によって磁場を加えると、「フレミングの左手の法則」により力が発生する。この力がイオンの流れを活発にし、血液の流れをよくすると考えられている」

の検証に関してはちょっと長くなってしまったので,次回。

2009年4月27日月曜日

磁気と生体(6)修正

「磁気と生体(6)」に修正があります。

「皮膚の表面温度の上昇がなかった」という論文として,

H.N. Mayrovitz, E.E. Groseclose, M. Markov, A.A. Pilla
Effects of Permanent Magnets on Resting Skin Blood Perfusion in Healthy Persons Assessed by Laser Doppler Flowmetry and Imaging
Bioelectromagnetics 22, 494-502 (2001).

を紹介しましたが,この中で実験で用いられている永久磁石として

「実験に用いられている磁石は, 0.1テスラ(1000ガウス)の磁束密度をもつ45×22mmの大きさのディスク状の磁石です。実際に商品として売られているものだそうです。実験は二重盲検法で行われており,シャムは同じ見た目・大きさ・重さの非磁性セラミックとのこと。」

と紹介しましたが,これは間違っておりました。よくよく読むと,磁石は2種類使っていて,

(1)一つは,28×17.8㎝のパッドの中に,45×22mmの長方形の磁石を16個等間隔に並べたもの
(2)もう一つは,直径4㎝で厚さが1㎝のディスク状の磁石

でした。結構でかい。

磁束密度ですが,

(1)は長方形の磁石については,磁石表面では0.1テスラであるものの,パッド表面では0.05テスラ(500ガウス)
(2)は表面で0.1テスラ

とのことです。

以上,修正です。すみませんでした。

2009年4月25日土曜日

磁気と生体(6)

第1回「磁気と肩こり豆知識」続き。

まだまだ「■磁気治療は古代ギリシアの時代から」の第3段落続き。

「実際、人体表面の温度分布を測定する赤外線サーモグラフィを使って試験してみると、磁気作用は明らかに血行をよくして、体温を上昇させていることがわかる」

これはテレビコマーシャルなどでも良く目にする画像なので,きっと大量に論文などがあるだろうとずいぶん探したのですが,すぐには見つかりませんでした。

やっていそうな先生のページも探してみましたが,やはり見つからず。

しかし,灯台もと暗し。

っていうか,ちゃんと論文読めよ,それにインターネットの力を過信しすぎるなよ,という感じですが,前々回のエントリで紹介した(2)のレビューのReferencesに,文献番号17として,

Kanai S, Okano H, Susuki R, et al.
Therapeutic effectiveness of static magnetic fields for low back pain monitored with thermography and deep body thermometry
J. Jpn. Soc. Pain Clin. 5, 5-10 (1998).


という論文が挙げられていました。

おぉ,サーモグラフィとか書いてあるし,これかー。そこで論文誌を調べてみると書誌情報に該当する論文は,

腰痛に対する磁気による治療効果の検討
金井成行,岡野英幸,薄竜太郎,阿部博子
日本ペインクリニック学会誌, 5(1) : 5-10, 1998.


であるということが分かりました。…あれ,日本語の題名にはサーモグラフィとか書いてないな。

すぐに手に入らなかったので,まだ中身の検討は出来ていません。図書館に複写依頼をする予定です。

ですが,この論文を読まなくても「磁気作用は明らかに血行をよくして、体温を上昇させていることがわかる」に対して「明らかではない」ことを示すことはできます。

例えば,

H.N. Mayrovitz, E.E. Groseclose, M. Markov, A.A. Pilla
Effects of Permanent Magnets on Resting Skin Blood Perfusion in Healthy Persons Assessed by Laser Doppler Flowmetry and Imaging
Bioelectromagnetics 22, 494-502 (2001).


という論文では,21歳から48歳までの16人の健康な女性(平均年齢は27.4±1.7歳)を被験者として,永久磁石(静磁場)が皮膚下の血流状態および皮膚表面温度に与える影響についてレーザードップラー法で調べています。

実験に用いられている磁石は, 0.1テスラ(1000ガウス)の磁束密度をもつ45×22mmの大きさのディスク状の磁石です。実際に商品として売られているものだそうです。実験は二重盲検法で行われており,シャムは同じ見た目・大きさ・重さの非磁性セラミックとのこと。

実験は,磁場を照射して4分ごとに36分まで計測を行っています。

結果として得られたのは,
・磁場照射前に比べて皮膚灌流(skin blood perfusion)に変化なし
・皮膚表面温度も同様に変化なし


つまり,この実験では皮膚の温度の上昇という結果は得られていません。

またWeb of Knowledge上で確認した,現在までにこの論文を引用している17の文献について,それぞれのアブストラクトを読んだところ皮膚温度が上昇したという反例はありませんでした。

(同じMayrovitzらのグループが,85ミリテスラでもやはり皮膚温度の上昇などの効果はなかったと結論した論文はありました)

また,これは別の文献でまだざっとしか読んではいませんが,

S. Ichioka et al.,
High-intensity static magnetic fields modulate skin microcirculation and temperature in vivo
Bioelectromagnetics 21, 183-8(2000).


という論文では,超伝導マグネットで発生させた8テスラ(8000ミリテスラ=80000ガウス)の磁場中に置かれたマウスについて,皮膚の表面温度が下がった(0.5~1℃程度)という結果が得られています。

下がってるじゃん。

1998年の金井らの論文にどのような結論が導かれているか現時点ではまだ分かりませんが,36分間磁場を当てても皮膚の温度上昇は認められていないことからも「明らかに」温度が上昇する,ということはなさそうです。

・・・・・・・・

いや~,にしても,一段落の中に三つも突っ込みどころがあるとは,恐るべしサイエンス・ストーリー…

2009年4月22日水曜日

磁気と生体(5)

さて,第1回「磁気と肩こり豆知識」続き

「■磁気治療は古代ギリシアの時代から」の第3段落続き。

「昭和36年の薬事法施行令の中で、治療器具のひとつとして正式に登録されている。」

これは確かに事実です。施行令の別表第一(第一条関係)の八十一に「磁気治療器」として挙げられています。平成21年1月に改正された施行令でも同様です。

薬事法においては,家庭用磁気治療器は管理医療機器(クラス2)に分類されており(1758 家庭用永久磁石磁気治療器),現在は厚生労働省所管の独立行政法人医薬品医療機器総合機構が医療機器の認証を行っています。

「厚生労働省認可」というのは,この医薬品医療機器総合機構が出している認可のことなんでしょうね。

しかし,この事実はともかくとして,だから何だというのでしょうか。

「国が認めた=効果が実証されている」とでも言いたいのでしょうか?

薬事法施行令に登録があるということは,また,医薬品医療機器総合機構が認可を出したということは,いずれも磁気治療が有効であることの科学的・医学的根拠にはなりません。

もちろん,これらの含みとしては「大規模かつ厳密な臨床試験が行われた上で有効性が確認されたのだから,登録がある,認可されている」となるかと思います。

(にしても,このような文章は詭弁であり,このように行間を読む必要はないのですが,詭弁に対して免疫のない人はこのように解釈してしまうと思います。)

医薬品医療機器総合機構の「医療機器の認証基準に関する基本的考え方について」を読むと,医療機器の認可に際してその機器が使い方を誤ると人体に危害を及ぼすようなものでない限りは,臨床試験が必ずしも行われるわけではないようです。

これは,認可するかいなかの基準としてその機器の危険性の有無を上位に持ってきているためでしょう。危険でも臨床試験の結果,十分に恩恵が得られることが分かったならば適切な管理をするという条件で認可しましょう(使いましょう),危険じゃないなら,メーカさんが効果はあると主張されるなら,それを信じて認可はしましょう,というところでしょうか。

さて,この昭和36年の家庭用永久磁石磁気治療器の認可に際して臨床試験が行われて効果が確認されたのかどうかは残念ながらぼくはわかりません。ですが,前段の「有効性はとっくに確認されて」という言明が正しくない現在の医学界の情勢から,もし行われていたとして,さらに認可に臨床試験による有効性の証明が必要であったとしたら,おそらく認可は下りなかったのではないでしょうか。

まあ,これは単なる推測です。

磁気治療器が厚生労働省の認可を受けているというのは,事実です。しかし,そのことと,磁気治療器に効果があるかどうかは関係ありません。

最後に今回の記事について補足。

この「磁気と生体」検証シリーズでは,これらの記事が「サイエンスストーリー」を標榜している以上,その主張の科学的妥当性について検証していくのが目的です。

したがって,この「磁気と生体」シリーズについて,筆者の個人的信念が表明されている部分に関して価値判断をする場合はその旨明記するつもりです。

ぼく自身は磁気治療法に懐疑的ですが,磁気治療法に効能があるという結果を導いている研究が存在していることについて懐疑的ではないし,科学的に検証することが第一に重要だと考えます。懐疑的であるということは,むやみに否定的であるということではありません。もし十分に検証したのち「どうやら効果がありそうだ」との結論に至れば,それを表明します。

今回取り上げた部分に関しては,科学的な言明でもなければ個人的信念の表明とも言えません。

しかし,この文章は読者に強制的に行間を読ませる非常に悪質な詭弁であるし,この部分が唐突かつ脈絡もなく存在しているということが,これらの文章の「サイエンス」を致命的なまでに貶めているため,強く否定しました。

ぼくは,この一文があったというだけで,この文章は疑似科学・似非科学であると断定してよいと思っています。

2009年4月21日火曜日

そういえば

森先生はボルツマンメダルもらってもおかしくないと思うし,Sam Edwardsにノーベル賞が与えられないのは不満。

磁気と生体(4)

魅惑のサイエンスストーリー「磁気と生体」徹底検証シリーズ。

まず第1回「磁気と肩こり豆知識」から行ってみましょーー

「■磁気治療は古代ギリシアの時代から」

最初の方に関しては,磁気治療の歴史に関する話の枕なので,スルー。
(「下剤として磁石を飲んでいた」ってのは本当かなぁ,と思うけど)

※パラケルススやメスメルのエピソードが出てこないのは,不思議。
⇒Skeptical Inquirerの記事を参照。(James D. Livingston,” Magnetic Therapy: Plausible Attraction?”, Skeptical Inquirer 22(July/August), 1998)

・3段落目。
「磁気治療など、単なる気休めと思っている人が今でもいるが、医学的にその有効性はとっくに確認されていて、」

いきなり,これです。

この第一回目の文章が配信されたのが平成5年(1993年)10月であり,15年以上前です。となると,「とっくに」がそれからどれほど昔を指すのかわかりませんが,少なくともこの時点でも「磁気治療は(医学界でも)コンセンサスを得ている」とこの筆者は述べているわけですね。

これは本当か。

ぼくは「magnet therapy」などをキーワードにして文献検索をした結果,一番最近のレビューおよびメタ解析論文として,次の四点を見つけました。以下,発行順に紹介しています。(3)だけはメタ解析ではありません。

最初の二つは観点が非常によく似ていますし紹介している文献も相当数重なっていますが,それぞれ反対の結論を導いています。

(1) A Critical Review of Randomized Controlled Trials of Static Magnets for Pain Relief
(痛み緩和のための磁石使用の無作為化対照試験の系統的レビュー)
Nyjon K. Eccles
The Journal of Alternative and Complementary Medicine 11, 495-509 (2005).
(代替および補完医療ジャーナル誌)

▶磁石の痛み緩和効果に対してかなり好意的な結論を下しています。
▶紹介されているもっとも古い研究は1977年のHarper and Wrightによるもので[1],つぎは1982年のHongらによるものです[2]。その次は1994年のKimらによるものです[3]。
[1] D.W. Harper and E.F. Wright, Lancet 2, 47-54(1977). 結果は否定的。
[2] C.-Z. Hong, et al., Arch. Phys. Med. Rehabil. 63, 462-6(1982). 顕著なプラシーボ効果。結果は否定的。
[3] K.S. Kim and Y.J. Lee, Kanhohak Tamgu (in Korean) 3, 148-79(1994). 結果は否定的。
▶この研究者は同雑誌に,二重盲検法による磁石の月経困難症(dysmenorrhea)への効果について発表しています(ibid, 11, 681-687 (1995))
▶Jadadスコアの採点を行っています。

(2) Static magnets for reducing pain: systematic review and meta-analysis of randomized trials
(疼痛緩和を低減させるために使用される磁石:無作為化対照試験の系統的レビューおよびメタ解析)
Max H. Pittler, Elizabeth M. Brown, Edzard Ernst
Canadian Medical Association Journal 177, 736-742 (2007).
(カナダ医師会ジャーナル誌)

▶磁石の痛み緩和効果に対してかなり否定的な結論を下しています。
▶Jadadスコアの採点を行っています。
▶人体を被験体として行われた無作為化対象試験という条件で行われた実験に限定しています。
▶紹介されているもっとも古い研究は1982年のもので,(1)のEcclesのレビューにもあるHongらによるものです。
▶その次の検討されている論文は1997年に出版されている二本で,一つはCaselliらによるものです[4]。もう一つはVallbonaらによるものです[5]。
▶いずれ検討しますが,ピップトウキョウによる研究についても,Jadadスコアの採点は厳しく,否定的です。
[4] M.A. Caselli et al., J. Am. Podiatr. Med. Assoc. 87, 11-6(1997). 結果は否定的。
[5] C. Vallbona et al., Arch. Phys. Med. Rehabil. 78, 1200-3(1997). 結果は肯定的。

(3)A Literature Review: The Effects of Magnetic Field Exposure on Blood Flow and Blood Vessels in the Microvasculature
(文献レビュー:微小血管系内血流および血管に対する磁場照射の効果)
J.C. Mckay, F.S. Prato, and A.W. Thomas
Bioelectromagnetics 28, 81-98 (2007)
(生体電磁気誌)

▶このレビューは「こんな研究がありますよ」という文献の紹介なので,個々の結果に対するメタ解析は何もしていません。ただし,磁場による血管系への効果について,なんとなく好意的であることは分かります。
▶紹介している一番古い研究は1986年のものです。
▶結論によれば,紹介した27の研究のうち,4つが磁場照射は血管系に何も引き起こさなかった(効果なし)とあります。
▶また,細胞レベルの効果については,19の研究のうち5つが磁場照射は何も引き起こさなかった(効果なし)とあります。
▶逆を言うと,大多数の文献は何らかの効果があったということになります。

(4)Static Magnetic Field Therapy: A Critical Review of Treatment Parameters
(静磁場治療:施術パラメータの批判的レビュー)
Agatha P. Colbert, Helané Wahbeh, Noelle Harling, Erin Connelly, Heather C. Schiffke, Cora Forsten, William L. Gregory, Marko S. Markov, James J. Souder, Patricia Elmer and Valerie King
Evidence-based Complementary and Alternative Medicine, Advanced Access published Octobar 4, 2007.
(証拠に基づく補完および代替医療誌)

▶これはまた別の視点からのレビューおよびメタ解析で,個々の静磁場治療法研究についてその実験デザイン,特にどのように磁場を与えているか,磁性体の種類・大きさ・極の置き方などなどを十分に検討しているか,についてレビューしています。
▶磁気の生体への影響の有無については言及していませんが,静磁場治療法研究者たちの実験方法についてかなり手厳しい評価を下しています。
▶結論として,紹介している研究のうち61%が,意図した生体組織に磁場が適切に照射されているか検討できておらず,結果としてこれらの文献からは静磁場治療の効果に関していかなる有益な結論も導くことはできない,としています。

ほかに
(5)Magnetic Field Therapy: A Review
(磁場治療法:レビュー)
Marko S. Markov
Electromagnetic Biology and Medicine 26, 1-23 (2007).
という論文もありましたが,これはすぐに入手することができず,中はまだ見ていません。

さてこれらのレビューを読んで(いや実際には読まなくても)わかることは,永久磁石あるいは静磁場を用いた治療法に関して「医学的にその有効性はとっくに確認されていて」とは到底言えないということです。

これだけレビューおよびメタ解析の論文が出ているということ,および,ぼくが読んだ上記4つのレビュー論文のうち,非常に好意的な(1)を除いて「磁気治療に関しては科学的原理・生物学的メカニズム・臨床医学的証拠が不足している(限られている)」あるいは「確立されていない」と書いてあることから考えても,磁気治療が医学界においてコンセンサスが得られている治療法ではないことは明らかです。

次に,(1)および(2)のレビューで,無作為化対照試験が行われた研究として紹介されている文献のうち,もっとも古いものから三つの出版年を書き写しましたが,そのうち,この「磁気と生体」の記事が書かれた1993年よりも前の論文は二本だけ,しかもそのいずれも静磁場を用いた痛みの緩和などの効果について否定的な結論を出している研究です。

非常に好意的なレビュー(1)ですら,1993年以前の肯定的な論文を紹介していないのです。

(無作為化対照試験ではなく,肯定的な結果を与えている研究は1993年以前にもあります)

また,別の例になりますが,上に挙げたレビュー内でも言及されている岡野英幸(ピップトウキョウ),大久保千代次(国立保健医療科学院,当時)のグループは,2003年から2005年の間に数本の論文を発表していますが,ほとんどがラットを用いた研究です。

仮に1993年の段階で
「(磁気医療について)医学的にその有効性はとっくに確認されていて」
というのならば,なぜ10年後に至ってもラットでの実験を行っているのでしょうか??

また,厚生科学研究費補助金を用いて21世紀型医療開拓推進研究事業として行われ,2001年に成果が発表された「科学的根拠(Evidence Based Medicine;EBM)に基づいた腰痛診療のガイドラインの策定に関する研究」(主任研究者・白井康正・日本医科大学名誉教授)の第5章「腰痛に対する物理療法の効果」の中に,永久磁石を用いた研究についての文献考察があり,ガイドラインを示すために必要なエビデンスレベルの評価として,「行わないことを中等度に指示する根拠がある」,またレビューアの意見として,「パイロット研究であるが、医療の一部としてこの治療法を認証するに足るエビデンスは不足している。今後の研究が必要。」と書かれています。

(とは言え,この厚生科学研究では腰痛の磁気治療法についてそれほど真剣に調査したような印象は受けません)

以上のことから「有効性はとっくに確認されていて」などとは到底言えないと結論することができます。この文章ひとつとってもこの著者が非常に恣意的な論理展開を行う人間であることが分かり,正直不快な気持になりますが,ぼく自身の不快さは別として,次の文の検討にうつっていきましょう。

追伸:どんどん調べていくうちに,大体の様相が掴めてきました。また,この著者が何をソースにして,また何を背景にして,どのような論文を念頭に置きながらこれらの文章を書いているかも分かってきました。

その背景には中心人物(物故者)が一人おり,その人の学説を紹介しているページになってしまっているのです。

もう数回後にその名前は出てきます。

2009年4月20日月曜日

磁気と生体(3)

さて,魅惑のサイエンスストーリー「磁気と生体」について,書かれていることを検証するシリーズです。

実際に検証に移る前に,なんでまたこんなことを始めたかの背景から。

…すいません,遠回りしてます。

磁気治療器,特に永久磁石をお灸みたいにはり付けるタイプの治療器については,大学院生の時に,当時受け持っていた授業の学生から「ああいうグッズには効能はあるのか? 臨床医学的・科学的に検証されているのか?」と質問されたことがありました。専門じゃないのですぐには答えられず,時間をもらって少し文献調査をしました。

そのときは肯定的な結論を出している論文,および否定的な結論を出している論文を数本調べて,肯定的な結果を出している論文には実験デザインに不備があるという指摘があるとして,概して医学界の趨勢としては否定的である旨を,その学生さんに答えました。

また,個人的な印象として,大して強いとも言えない静磁場(80~120ミリテスラ)が人体に影響を与えるとは思えない,と伝えました。そんなことがあったらMRI(1テスラ=1000ミリテスラ程度の静磁場を用いる)で正確な診断なんてできないじゃないか,と。

それから,しばらくその話題から遠ざかっていました。

しかし,今回とあることから,このTDKさんのページ上の問題あり過ぎな記事にたどり着き,この磁気と生体の関係に関して再度徹底的に検証してみようと思ったわけです。

それはどんなきっかけだったのか。

…はっきり言って,すごいくだらないです。

それがまた何かっつーと,陣内智則と藤原紀香の離婚のニュースなんですな。

なんで藤原紀香と磁気治療器?というところですが,このニュースを聞いた時,そういえばどこかで藤原紀香が風水に凝っているという記事を読んだなぁ,と思い出したのです。

んで,風水についてちょっと調べてみようかな,とか思って,とりあえずWikipediaでも読むか,って該当項目を見ると,「ちなみに,現代における風水は,地磁気と人体の関係を追及している」とか書いてあって,いきなり「はぁぁー??!!」となったわけです。

「地磁気と人体の間の関係ってなんよ?…ていうか,なんにちなんでいるわけ??!」と。ぼくのスケプティックブースターを点火させたわけです。

(にしても,Wikipediaの風水の項目はやけに肯定的な立場ですね。そうなると,以前書いた「地域の風水に影響を及ぼす懸念がどうたら」というのも,諧謔精神ではなく本気でそう書いているのかもしらん)

んで「地磁気+風水」とかで検索かけてみるとたくさん引っかかりますけれども,いろんな「地磁気と風水」の関係について肯定的なサイトで,「地磁気,というか磁気は人体に様々な影響を与えるのよん」という同じ(ような)文章を何度も読まされました。

さらに,様々な磁気パッドやら磁気ネックレスやら磁気リストバンドやらを売っているサイトにも,まったく同じ(あるいは同じような)文章がたくさんあるではないですか。

こりゃあ,どこかに大元の出典があるな,と調べた結果,このTDKさんのサイトにたどり着いたということです(まあたいして検索しまくらなくてもすぐに見つかりますが)。

そこでシリーズの記事を一通り読んでみたら,内容のあまりの偏りっぷりに驚いた。

そして各記事をイラっとしつつも楽しんで読みながら,ぼくは「これは問題だな」と思いました。それは,これらの記事が磁気治療器販売業界の商品に「(TDKという大会社による)科学的な裏付け」を提供しているらしいという現状です。

もちろん,TDKさんは自社でもそのような磁気治療グッズを販売されていて,科学的な裏付けが必要なのはわかりますが,これらの記事は科学的読み物としてはひどい代物で,まったく裏付けになっていない。

さらにそれにも関らず,TDK以外のメーカがこの記事の果たしている何かに便乗している感は否めない。

(この点,いずれ書く予定ですが,ピップトウキョウおよびピップフジモトは非常に慎重というか,分かっていないことは「分かっていない」と率直に書くなど,好感すら抱かせる態度を示しています。老舗の自信を感じさせます)

なんでTDK以外のメーカがこの「磁気と生体」シリーズの記事を無批判に引用(あるいは多少改稿して引用)するのか,その動機には二つの推測がありえて,一つは

「大会社がこうやって証明してくれているのだから,やはり磁気治療グッズの効能には科学的根拠がある」

と純粋な気持ちで引用しているか,もしくは

「一般の人々は科学的に妥当かどうかなんてどうせわからないだろうけど,科学的な雰囲気の何かそれらしいこと書いておけば安心するだろう,おぉ,ちょーど良い記事があるじゃん,これ使おう」

という悪しき性根があるか,どちらかだと思われます。

このいずれの態度も,大問題です。何度も書いているように,これらの記事は科学的裏付けを与えるようなものではない。

かと言って,この記事を目にした時点では,科学的文章に関する方法論以外の点について詳細な検討ができるほどぼくに知識があるわけでもありませんでした。

だから,徹底的に調べてみよう,と思い立った次第です。

2009年4月18日土曜日

3年日記

の使い勝手の悪さに少しうんざりする…内側の方が書きづらいよ

しかし,これはきっと今までの人生の中で3年も日記を書き続けたことがないからだろう,と反省。

2009年4月14日火曜日

最近

近接場光学(近接場顕微鏡)の勉強中…

自作できればいいけど,まったくもってどっから始めて良いか分からん。

2009年4月3日金曜日

磁気と生体(2)修正

前回のエントリーの中で,

(もちろん,漢方→鍼灸→…→ホメオパシーと,懐疑の程度は全然違いますが。漢方医学に関しては,理論というか人間観・世界観はともかくとして,実績および効能の科学的解明が進んでいるという点を鑑みると,もはや代替医療じゃないし)

はちょっと書きすぎました。

「漢方医学」が「代替医療じゃないレベルに達している」と述べたかったわけではなく,「漢方薬の中で効能が認められているものがある」ということです。

※小青竜湯などは二重盲検法により優位性が認められるという論文がある。たとえば
馬場駿吉他『小青竜湯の通年性鼻アレルギーに対する効果-二重盲検比較試験-』耳鼻咽喉科臨床 88, 389-405(1995)
など。

したがって,漢方薬の中には一般の病院でも処方箋が出るものがあり,その意味で代替医療ではない,ということです。

2009年3月31日火曜日

磁気と生体(2)

さて,この「磁気と生体」シリーズは平成5年(1993年)10月から平成7年(1995年)11月にかけて,「磁気のはなしpart1としてファクシミリで配信されていたシリーズです」とのことです。

「ファクシミリで配信」というのはちょっと状況が良く分かりませんけど,そのあとにある「このたびいつでもご覧いただけるよう、本サイトに掲載することにいたしました。」という文章から推測すると,その当時はそれほど多くの人が読んでいたわけではない,ということでしょうか。

そのような初出に関する事情についてはともかくとして,ぼくが問題だと思うのは,さらにこの後に続く,
「磁気と生体(生命)との関係に多方向からアプローチした興味のつきないサイエンスストーリーです。」
という文章です。自らの感情に関して告白すると,非常にイラっとする。

サイエンスぅ??

はじめに全体の結論を言ってしまうと,この一連のシリーズは全然サイエンスではない。
・「磁気」と「生体」に関する当該科学分野の状況・結果を正しくかつバランス良く紹介をしているわけではない
という意味からも,
・議論の展開の仕方が,最低限の科学の方法論にすらのっとっていない
という意味からも,全然サイエンスではない。

特に重大な問題であり,強く非難されるべきところとして,この一連のシリーズの文章中には
「・・・は確認されている」「わかる」「医学研究者たちは・・・と主張している」「報告されている」「医学統計的に・・・事実なのである」「実証済みである」「実験的に示されている」
という結語が頻出しますが,こういう断定を書いている割には,まったく文献引用がないことです。

これは,腹が立つ。

それに「多方向」っていうのも意味が分からない。

「サイエンス」ってのは事物に対するアプローチの方法であって,おそらくここでいう「方向」の一つなんだろうから,「多方向」って言うことは,このシリーズにはサイエンス以外も含まれているっていうことなんだろうか?

まあ,「興味がつきない」ってのはそのとおりです。おそらく書き手が喚起することを意図している興味とは別だと思いますが。

そうそう,先に表明しておきたいことがございます。

磁気,特に米粒サイズの永久磁石が発生させる程度の静磁場(および磁束)が,血管を拡張させるという効果に始まって,痛み・こりを軽減するなど,おおよそ磁気医療機器メーカが主張されている医療効果を誘引するという主張に関して,ぼくは非常に懐疑的です。

そして,そのほかの磁気医療全般に関しても,懐疑的です。

もっというと,代替医療全般に関して懐疑的です。

(もちろん,漢方→鍼灸→…→ホメオパシーと,懐疑の程度は全然違いますが。漢方医学に関しては,理論というか人間観・世界観はともかくとして,実績および効能の科学的解明が進んでいるという点を鑑みると,もはや代替医療じゃないし)

ですが,これはぼく個人の主観であり,実際のところ科学としてどうなのか,知りません。ですので,今回はこのシリーズを題材として,そして,引用文献が全くないところから,おそらくこれが引用文献であろうという探索も行いつつ,磁気医療について勉強していきたいと思います。

やべえ,大型連載の予感。

(地球温暖化懐疑論についても調べているのに)

2009年3月24日火曜日

磁気と生体

中学・高校の頃,ウォークマンを持つことが憧れでした。ぼくも買ってもらった時はうれしくて,ずいぶん長いこと使っていた記憶があります。

その時,大量に持っていたのが,カセットテープでした。もちろん,CDはありましたが,音楽を持ち歩くためには,カセットテープにダビングする必要があったのです。

ラジオもよく録音したものです。なんせCDとか買うお金がないからねぇ~

当時も(今も)生意気というか背伸びしたがっておりましたので,いっぱしに音質なんかにこだわるのですね。やれしゃべり声の録音はノーマルがいいとか,やれメタルは耳障りだとか,やっぱりハイポジだとか。

そんなとき,TDKという会社がソニーと並んでカセットテープの代名詞でした。

「やっぱ音楽聴くならTDKのテープだよね~」

と,がさがさ買い込んでいたのです。

とゆーかね,音楽に限らず,昔は何でもカセットテープじゃった。。。フロッピーディスクがまだ5インチで高価じゃったころ,コンピュータはカセットテープにデータを記録しておったのじゃよ。RECボタンのタイミングが難しくて,良くセーブに失敗したもんじゃ。

しかも,暴走の危険を乗り越えてせっかくマシン語(死語?)で書いたプログラムを,なんとかテープにセーブしたのに,そいつを間違えてオーディオデッキで再生してしまった日には,すさまじく耳障りな音がして,いたずら電話の撃退には有効だったかも知らんが,その瞬間にコンピュータにロードできなくなってしまったのじゃよ。。。今じゃ考えられんがね。

おっと話がずれましたな。

そんな磁性材料,いや無機材料の雄,TDKですが,ホームページ上に

『今の技術がよくわかる テクノマガジン:テクマグ』

というコンテンツがありますがね,この中の「過去の読み物」,

『磁気と生体』

シリーズ26回。大型連載ですな。でもね,これは。。。マズいよ。ヒジョーによろしくない。TDKと言えば,優秀な材料科学者・技術者・研究者を擁し,また輩出してきた会社なのに,この連載は,無いよ。

1回目からいきなり磁気治療に好意的な記事。。。ものすごく不安を感じさせる文章です。

これから,何がよろしくないのか,少し詳しく書いていく予定です。

2009年3月22日日曜日

2000年セリーグ勝敗表

今日,書類の整理をしていると,新聞の切れ端が出てきました。

普段,スクラップをする習慣などないので,なんじゃこりゃあ,と思いました。しかし,一目見てなぜ自分がそれを切り抜いてとっておいたか,すぐに思い出しました。

それは,2000年のセリーグの勝敗表でした。ちなみに優勝はにっくき巨人です。横浜は3位でした。(まだ強かったんだねぇ)

嫌いでたまらない巨人が優勝したのに,なぜ,勝敗表なんてとっておいたか。それは。。。対称性がゆえです!!!!

物理をやっていると,どうしても対称性に過剰に反応します。ぼくはそれほど「対称性ラブ」ではないのですが,それでもやっぱり反応する。アムステルダム国立美術館の建物が微妙に対称的じゃないのにちょっとイラっとする。

それはさておき,どんな対称性か。

勝敗表をご覧ください↓

1.巨人:  78勝57敗
2.中日:  70勝65敗
3.横浜:  69勝66敗
4.ヤクルト:66勝69敗
5.広島:  65勝70敗
6.阪神:  57勝78敗

ねーー,すごくない,これ?

しかも,各チームの対戦成績も完全に対称行列なんだよ~~~
すごい,すごすぎ。何が一体起きたんだ?

まさか,イギリス王室の親族がさらわれて全世界のMI-6情報員が緊急招集されたのか?
それとも世界が終るのか??

そりゃ取っておくよな…

と自分で自分を誉めておく。その割にはずーっと忘れていたんだけど。

2009年2月12日木曜日

どーも

最近携帯電話宛にスパムが来るようになったなぁ。。。

いろいろ便利なこともあるから,いくつかのサイトに登録しているのですが,それほどの数というわけではないので,ここか,ここ,から流出しているという気がしてならない。。。

ぼくは今のところ公式のメールアドレスにスパムをもらうことはないのですが,以前,ある日突然増えたことがあって,どうしたことだろうと調べたら,とある国際会議の参加者リストに思いっきりテキストでメルアドが載せられていて,主催者側事務局に文句を言ったことがあります。暗号化するか,画像形式にするか,せめて「_at_」にせいや,と。

結局,かなりおざなりな対応(参加者のメルアド全部削除(!))をされたのですが,消えた瞬間また来なくなりました。

学術関係者は,以前から雑誌の編集者とかやっていると,未だにそのウェブページ上に「mailto」で載っていたりするので,スパムボットのいい餌の供給源ですよ。

スパムがたくさん来る人は,グーグルとかで自分のメールアドレスを検索して,引っかかったところに一つ一つ対応をお願いする(要するに文句を言う)ことをお勧めします。

いまどきそのまま「mailto」をつかっちゃうのは,古き良きインターネットを信じている純真な人だけ,という嫌な世界になりましたな。。。

それはそうと,「スパマーを追いかけろ―スパムメールビジネスの裏側」(オライリージャパン)は大変面白い本です。

2009年2月7日土曜日

やらかしちまった

測定装置のヒューズ飛ばした。。。

アンプの接続を思いっきり間違えました。そりゃ飛ぶわな。

普段なら,自分の記憶力にまったく自信がないがゆえに,ちょっとでもあいまいなこと(今回なら配線の仕方)があったら良く分かっている人に必ず尋ねるのに,

・最近液晶自身および液晶物性測定の詳細を理解してきたとうぬぼれ
かつ
・仕事がたまりすぎてて切羽詰って心の余裕を失い

これらの理由から,本当は自信ないのに学生から質問されたときに間違いを教え,結果として装置を測定不能に追いやってしまいました。はぁぁ。。。ミス。完全にぼくのミス。

この装置,先々週も同じようなヒューズ破損をやらかしているのに。今回は反対側のボード。前回は測定装置メーカーの人になおして貰ったのですが,今回は相談した結果,

「ヒューズ送るんで,自分でつけてください」

とのこと。

そりゃ,自業自得ですからな。

そういえば,先週はとある電気化学用測定箱内のケーブルが絶縁ケーブルであることを知らずに思いっきり半田を当ててしまい,修理したつもりが短絡させておりました。。。そっちは今日直した!

失敗すると他人に迷惑甚大ですが,自分の勉強にはなります。とはいえ,最近研究室内および測定室・クリーンルーム内のメンテナンスばかりやっているような気が。。。

いずれにしても,ご迷惑をおかけして申し訳ありません。

2009年1月31日土曜日

うーむ…

読み返してみるたび,1月15日の自分自身の投稿は,長いせいかどうもまとまりを欠いていますね…

自分が主張しようとしたことを自分自身で再構築してみる:

まず前提として,
・誰もが,自分が詳しくない問題(命題:「地球温暖化は人為起源である」)について価値判断を行う場合,その道の専門家の権威に頼るしかない,
というものを置いている。

次に,その命題が実のところ価値判断を排除すべき科学的問題であったとしても,社会的な影響が大きい場合,
・(3)に分類される非専門家でも結局は権威に頼る場合があると思う。少なくとも僕自身はそうだ,
ということ。

なんでこんなことをぐだぐだと言ったのかというと,それは次に書こうと思っていることに関係があります。

次に主張しようと思っていることは,
・実は地球温暖化問題には『真の専門家』は存在しないと言ってよい。地球温暖化問題は取り扱う対象が非常に広いので,すべての地球温暖化の専門家は細分化された自分自身の専門性をバックグラウンドにしていて,その中でのみ科学的立証を行っている。すべてを網羅・立証している専門家はいない。
ということで,
・地球温暖化問題について,とある自然科学の専門家が発言したとして,その専門家があたかも地球温暖化の専門家であるような雰囲気を漂わせつつ極端な発言を行った場合,それが個人である限りはいかなる肩書的権威があったとしても,疑ってかかるべき。
ということ。

例えば,最近

Falsification Of The Atmospheric CO2 Greenhouse Effects Within The Frame Of Physics
Gerhard Gerlich, Ralf D. Tscheuschner
physics.ao-ph/0707.1161
http://arxiv.org/abs/0707.1161
なんて論文(…とは言え,これはプレプリントだから,査読を経て出版された論文とは違う)が出ているが,

「理論物理学者が書いた論文だからきっと正しいに違いない!!」
「熱力学第2法則に違反しているらしい!!」
「温室効果なんて無いんだ!!」

とかアブストラクトだけ読んで飛びつくのは,間違った権威の頼り方です。

理論物理学者は理論物理学者であって,地球温暖化問題の専門家ではない。また,この著者はどうも数理物理学の先生みたいだけども,だからといって放射伝熱や開放系の熱力学を十分に理解しているかどうかは分からない。

そもそもタイトルの付け方が気に食わない(笑)。自分は物理分かってんだぞ,みたいな。非常に権威主義的・物理バンザイなタイトルですね。…誰がおぬしを物理学の代表者として認めた?!

なんか嫌な雰囲気なんだよね,この論文。

ちなみに,この論文は読んでみよう,と考えています。

まあ,こういう論文って明らかに間違っていることって少ないんだよね。そもそもの前提(=物理学者が大好きなモデル化)が間違っていることが多々あるけど。

ちょっとまた脱線しましたが,最終的には,
・IPCCのコンセンサス主義を批判することは間違っている。コンセンサス主義しかとれない。
・そして,そのコンセンサスを「専門家の権威」として頼るべきである
ということも述べてみようと思っています。

2009年1月16日金曜日

最近自ら発見したことをひとつ

それは,自分が崎陽軒のシウマイ弁当をこよなく愛しているということである…

出張で山口⇔東京間を飛行機で往復することが多いのですが,飛行機に乗る前にいわゆる「空弁」を食べることが結構あります。(ぼくは乗る前に搭乗口付近の椅子で食べることが多い)

山口に来たてのときは,出張帰りの羽田空港で「今日は何にしようかなぁ」と,空弁をいろいろと試していたのですが,最近は違う。ほぼ100%シウマイ弁当です。

このようになったのには,あるきっかけがありました。それはある日のこと。羽田空港でいつものように空弁を漫然と選んでいたぼくは,ふと「この間食べたシウマイ弁当おいしかったし,また食べたいな」と思いました。そして搭乗口待合室のほうぼうの売店を探したのですが,折り悪くどこも売り切れでした。

そこで,「そうか,自分は焼売が食べたいんだな。じゃあ崎陽軒じゃなくてもいいじゃん。別の焼売弁当買おうっと」と,別の焼売弁当を買ったのです。

そして,その弁当を食べた瞬間に気づきました。

自分が,崎陽軒のシウマイ弁当を愛していることを。。。

2009年1月15日木曜日

地球温暖化問題に対する他分野専門家としての態度

ぼくは,大学院を博士課程まで修了し,物理学に関する博士論文を書いて博士号を取得し,現在物理学科ではないが工学系大学工学部の大学教員をしながら主に液晶ディスプレイの研究をしているので,現時点で物理学に関して専門家であるといってよいと思います。少なくとも,他人はそう思うでしょう。

さらに物理学は自然科学,それも非常にど真ん中(?)な自然科学だと,自然科学他分野の専門家からさえも思われているので(確かにぼく自身もそう思っているから物理を専門として選んだ面は大きい),ぼくはより広い意味での「自然科学」の専門家であるとみなされると言ってよいと思います。

さて,そのようなぼくが,地球温暖化問題に対してどういう見解・態度を持つべきか。特に「二酸化炭素増加は人為的なものか」問題についてどういう見解・態度を持つべきか。ここ最近そのようなことを考え,答えを出すためにいろいろと調べております。

なぜそのような問題提起を自ら行うにいたったのかというと,地球温暖化問題は「科学的事実」が日々の生活を含むすべての政治・経済に直接影響を与える重要な問題であるからであり,そのような問題に対して,ぼく自身は専門分野は違うけれども自然科学の専門家としてどう取り組むか,ということに興味を持ったからです。

ここでまず,ぼくが重要だと思い,言葉の定義をはっきりとしておきたい点は,地球温暖化問題を含め,すべての自然科学的な問題に対して「非専門家」には三種類あるということです。すなわち,

(1)自然科学,社会科学,人文科学を問わず,学問レベルでの専門性をほとんど持ち合わせていない非専門家
(2)社会科学,あるいは人文科学の専門性は持っているが,自然科学の専門教育を受けていない・専門性を持っていない非専門家
(3)自然科学の専門教育を受け専門性を持っているが,当該問題とは異なる自然科学分野の専門家

です。ぼくは(3)に当たるわけですが,(1)や(2)のかたがた,ことによると(3)に該当するかたがたでも,(3)を「非専門家」と呼ぶことに異論があるかもしれません。しかし,ぼくは物理学に関しては専門家ですが,地球温暖化問題に関しては非専門家です。ですので,(3)のかたがたも,(1)と(2)に並列しうる「非専門家」だと規定します。

(実際には(1)および(2)の専門の方々とは同じ意味での非専門家ではないのですが,それに関しては後述します)

そのように,「地球温暖化問題」という自然科学の問題に対して,広義の自然科学の専門家でも「非専門家」であることをはっきりと規定する必要があるとぼくが考えるのは,この問題の特殊性(というより問題の影響する範囲の大きさ)に起因します。それは繰り返しになりますが,この問題に対する旗幟を明らかにすることの社会的な重要さです。

ぼくの少ない経験から鑑みるに,大方の自然科学の専門家が日常取り組んでいる通常の科学的課題とは,それが最終的に人間社会の生活(政治・経済)に影響を与える,あるいは還元されるものであったとしても,それが取り組まれている時点においては現実社会とはそれほど密接なかかわりを持っていないと思います。少なくとも,物理学においては,研究結果について発表を行ったり論文を書いて雑誌に載ったとしても,そのことが物理の専門家ではない人(ほとんどの人がそうですが)に対していきなり影響を与えるものではありません。

しかし,地球温暖化問題については状況はまったく異なります。

地球温暖化問題は,専門家の発言が一般社会の非専門家に与える影響が非常に大きいと思います。

そして,何よりも先にここでぼくが問題だと思うのは,現在のところ,地球温暖化問題に関してはその専門家同士の意見の対立があって,それがある解かれるべき自然科学の問題という範疇を逸脱して,イデオロギー論争の様相を帯びているように見えるということです。

(物理学にはイデオロギー論争に近いものはありますが(高温超伝導のメカニズムなど),どの立場をとるかによって社会に影響が出るというような問題はぼくは思いつきません)

つまり,「地球温暖化は起きているのか」というもっとも大きな問題についても,「二酸化炭素増加は人為的なものか」という科学的には少し専門的だけれども社会的影響の大きい問題についても,全般的肯定派から,部分的否定派,部分的肯定派,全般的否定派まで,さまざまな見解・立場が存在しており,対立・論争を繰り広げ,メディアにも取り上げられている。もともとは自然科学の問題であったはずなのに,どういうわけか価値判断の問題になっています。

これは,困る。ほとんどの非専門家は困ります。実のところ(3)であるぼくも困っています。(…すいません,本当はあんまり困ってませんが。)

ぼくは,地球温暖化問題に対しては完全に素人です。専門的知識はそんなにありません。そういう意味では,ペットボトルをリサイクルすべきか,エアコンの温度設定をどうすべきか,スーパーのレジ袋を断るべきか,車で通勤することを止めて寒いけど自転車で通勤するべきか,日常生活の利便性と環境問題への対処というジレンマに悩む一般市民です。地球温暖化問題の科学的真実に関しては探求したいという関心は持っていますが,自分の専門の仕事もあり,なかなか十分な時間が取れません。

ですので,上記の「地球温暖化は起きているのか」および「二酸化炭素増加は人為的なものか」などについて科学的判断をすることが現時点ではできません。となると,地球温暖化問題に対する最初にとりうる立場としては,次の二つの選択肢が考えられます。

(A)「専門外なので分かりません」と言う。
(B)科学的真実とはいえない曖昧な根拠に基づきイデオロギーの価値判断をする。

(3)に該当するほとんどの自然科学の専門家は,自分の専門ではない科学的問題について(A)の態度を公式には表明すると思います。ぼくも高温超伝導現象のメカニズムに関しては完全に(A)を選択し,表明します。しかし地球温暖化問題に関しては,いかに自然科学の専門家といえども,その後の世代への影響を含む社会的影響の大きさから実際には(B)を行っている人は多いのではないかと思います。

さてぼくの場合はどうか。ぼくは(B)を選択しています。なぜか。それには科学的根拠がない。そのようなときはどうするか。それはもちろん,権威に頼ります。ここでいう「権威に頼る」とは,

「その専門家が主張している科学的内容を,周辺知識も含みすべて科学的に理解している(=主張の材料となる基礎的な科学的事実に関する十分な知識を持ち,かつその主張の論理的整合性の程度をすべて把握している)とは言えないが,この発言が正しいものだと受け入れる」

という判断・態度です。

ぼくの今のところの立場は,気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の権威,環境省の権威,国立環境研究所の権威に頼り,「地球温暖化(異常な気候変動)は起こっており,それは人為的な温室効果ガスの過剰排出によるものであり,すべての人間が日常生活レベルから政治経済レベルまでその削減に向けて努力しなければならない」→すなわち「死にたくなかったらリサイクルしようね」(うすた京介)を実践するということです。

三つの作業部会が提出した,合わせて3000ページ近くにもなるIPCC第4次評価報告書を全世界でいったいどのくらいの割合の人がすべて読んでいるのか知りませんが,ぼくはまったく読んでいません。となるとそこに潜む科学的問題点などをこの一次資料から見つけるなんてことは到底できません。

そしてさらに告白しなければいけないと思うのは,たとえぼくが自然科学の専門家であったとしても,他の自然科学分野の問題に対しては最初に価値判断を行い,その判断においてその道の権威に頼ることが多いということです。そういう意味ではぼくは自然科学の非専門家とまったく同じレベルです。いや,むしろ権威に頼るという点では(3)の定義に当たる非専門家として,(1)(2)の自然科学の非専門家よりもその傾向が強いかもしれません。

それはいくつかの理由があるのですが,最大の理由は,自然科学の専門家の「権威」というものが,その人個人に由来するものがすべてではなく,個々の内容をすぐさま科学的に理解できなくても,その発言が科学的根拠に基づいたものであるか否かの判定がある程度可能であるからです。

自然科学の専門家の発言には一定のルールがあって,それはたとえばデータの引用の仕方,他文献の引用の仕方,議論の仕方など,少ない言葉ではっきりと示すことがぼくにはできないのですが,そのような科学的発言を行う前提となるルールが必ずあります。

また,ある自然科学に関する研究結果を出すためにどれほどの努力が必要なのか十分すぎるほど知っていますし,自然科学の専門家同士の検証というものがどれほど厳しいものであるかよく分かっていますから,そのような背景からも,ぼくにとっては自然科学の専門教育を受けていない人の発言と受けてきた人の発言には権威には大きな差があります。

つまり,自然科学の専門家の「権威」というものは,その分野の過去のさまざまな研究・討論などから自然に醸成されてくるものです。ですから,ここで言っている権威とは,「○○大学の教授」とか「○○研究所の研究員」とか肩書きによる「権威」だけではありません。もちろんそれも権威の要素であることを否定するつもりはありません。そのような肩書きはその人が自然科学の基礎的訓練を受けてきたことを意味しますので。市井の自称専門家よりも大学の先生の方が専門家としての権威があるのは当然です。しかしそれだけではない。

いずれにしても,そのような一般的用語法とは少し異なるかもしれない「権威」は,(3)の方々のほうが上記の(1)や(2)の非専門家よりも強く感じるものだと思います。

ですから,ぼくは地球温暖化問題についても,自然科学の専門教育を受けていない人の発言よりも,受けている人の発言に重きを置きます。

(ぼくは,上記の定義の(1)および(2)に該当する多くの一般の非専門家は,専門家の権威に頼る態度をとっていると思います。だから経済的功利性を第一に追求すべき多くの企業も地球温暖化問題に取り組んでいるのだと思います。)

その「権威に頼る」という態度が良いのか悪いのか,というのは対象となる問題によりけりであることは明らかですが(常に良い・常に悪いなどあるわけがない),ぼくは自然科学の諸問題において(3)の非専門家がその道の専門家の権威に頼って探求をスタートさせるのはまったく悪いことだとは思いません。

なぜそう思うのかのひとつの理由としては,前述のとおり専門家の「権威」に対する専門家としての感性があるからです。今まで自分の専門外の自然科学的問題に対して知識がゼロのところから調べ始めて,権威を頼りに文献を読み進め,いくばくかすると直観的に何が正しそうか分かり,後でより深く調べて自ら最終的科学的判断を行った結果として今まで間違ったことがありません。ですので,ぼくは「地球温暖化が起こっている」および「二酸化炭素増加は人為的なものである」については,それが科学的にも正しい主張であると現時点では思っています。

また,ぼくは自然科学の専門家であって,そうではない(1)や(2)の非専門家と違う点としては,まじめに勉強すればある程度高度なレベルまで問題を理解することができるであろう,という点があります。

(もちろん(1)や(2)の方々が科学的諸問題の本質を理解できないと言うつもりはありませんが,自然科学に関する専門的・基礎的訓練を受けてきたか否かの差というのは,ちょっとやそっとの勉強で埋まるものではありません)

「権威に頼る」=「他人が考えたことを無批判に用いる」という図式に基づく批判は,(3)の非専門家には当たらないと思います。

ぼくは自然科学の専門家として,ある問題,ここでは「地球温暖化問題」ですが,に対する最初の立場として既存の権威に頼ったイデオロギー選択を自らの価値選択で行ったとしても,そのイデオロギーの選択を自覚的に行ったことと科学的真実の探求を別個に行うことができます。実際に勉強・研究をしていく過程で,もしそれが間違いであると自ら気づく,あるいは後々の検証によって明らかになれば,その時点での自らの立場のどこが間違っていたか明示的に理解することができ,かつイデオロギー的にも修正が可能だと思っています。

これはナイーブな考え方かもしれませんが,自然科学の専門家としての自負心とかいうよりも,専門家としてそうでなければならない,という強迫観念のようなものです。

ですので,「権威に頼る」ことが最終的な立場の決定ではないわけです。

以上のことから,自然科学の諸問題について「権威に頼るという態度は良くない」という発言があった場合,言われているほうが権威に頼ってその諸問題に対する科学的主張をしているなら批判されるべきですが,科学的主張でない価値判断の表明の場合は権威に頼る態度は批判されるべきものではありません。

しかし,専門外の自然科学の専門家として,地球温暖化問題の科学的詳細について分からないのもなんだかフラストレーションがたまるし,理解できるものなら理解したい,じゃあ勉強してみよう,ってなところな最近です。ほかにもいろいろ書きたいことはあるのですが,次の機会にします。

2009年1月13日火曜日

yahoo! JAPANの

ニュースのコメント欄,って研究に値するものだと思う。

ぼく自身の考えとは相容れない,基本的にはぼくにとって不快なコメントが多いのですが,それでも楽しみに見てしまう。そう告白(?)するのもなんだか恥ずかしいですがね。

どうしても,コメントを書いている人の統一像をイメージしようとしてしまうんですね。まず無理なのに。結局なんとなく「若い人なのかな?」ぐらいしかわかりません。

それでもこう,何か一定の像があるような気がします。それがたぶん「ネット右翼」という言葉で称されている像なんでしょうけど,イデオロギー的にはどうも右翼とは違う。

右翼とか左翼とかそういうイデオロギー的な理解は難しい。

もっと,社会心理学的な理解がしたいです。そういう意味で,研究に値すると思います。

2009年1月6日火曜日

2003から2007へ

はぁ~

なんとストレスの溜まることなんざましょ。

最近ようやく価値観押しつけ・がんじがらめのデフォルトの嵐をすべて解除して,やりたいように出来るようになってきたというのに,2007になってまた別のソフトウェアになってしまいよってからに。

今日は2003で作ったパワーポイントを2007で開くと…

なんか位置がずれている。
テキストを中央揃えにしたはずなのに,何この勝手な空白。

しばらくあがく。ストレスゲージ上昇。

。。。。。

ようやく判明。
そうか…インデントか。

何でヴァージョン変えただけで入ってもいないインデント勝手に入れるかな,こいつは。見た目が変わるのが問題なのに,見た目を変えるようなこと勝手にすんなよ。時間ないのに,まったく。(実際はPCを叩き壊したいぐらい怒っている)

よし,百歩,いや2兆歩ぐらい譲って,親切心の発露からインデントを入れたことを評価するとしよう。

。。。。。

だったらすべてのテキストボックスにインデント入れろや…

そうすればあがくために無駄な時間を使うことなく,すぐ気付いただろうが。

漢字の変換とかもそうなんだけど,なんか最適化するために妙な乱数の入ったアルゴリズムか,もしくは不完全な多次元最適化してないか?

それにしても,オフィスのデフォルト設定(いらん縛り)の嵐だけは本当に何とかしてくれよ。…どうにかしてカスタマイズ出来ないかなぁ。

せっかく作ったんだから使って欲しいってのは分かりますけど,押し付けはいけませんよ。