2008年3月1日土曜日

線形応答理論と揺動散逸定理

ほとんど同じものとして扱われることが多いこの二つ。理論と定理を同一視すること自体既に不安を感じさせるが,世間的にはあまり問題にされないらしい。でも同一にみることは間違いとは言えなくてもミスリーディングではないかとぼくは思う。

線形応答理論ってのは,系に「ガン」と摂動を加えたとき,平衡揺らぎがどうやって減衰していくかを見て輸送係数(電気伝導度とか)を見積もる一般的処方であって,その輸送係数自体は系に付随する量だから一般的な状況における摂動の強さとかかけ方には関係ない。系にムチャな力加えても(線形)輸送係数は変わらない。見えないと思うけど。

輸送係数を平衡相関関数から見積りたければ特別な線形応答が見えるような摂動をかけましょう,という了解の下での理論であるといえる。そのひとつの結果がグリーン・久保公式。

そんでもって,線形応答ってのは広い概念でもあるから,線形応答理論⇒グリーン・久保公式でも,グリーン・久保公式⇒線形応答理論ではない。ここを分かってない人があまりに多い。線形応答理論とグリーン・久保公式を同一視することは間違いです。

一方で,揺動散逸定理ってのは,『今平衡状態だよね?』の確認をしてくれる定理であって,系と熱浴がひとつの示強変数を共有していることを保証してくれる定理である。ブラウン運動の理論自体は線形応答理論成立以前の話だけども,たとえば揺動散逸定理(アインシュタイン関係式)が無ければブラウン運動の理論に熱浴の温度は入ってこないから,ブラウン運動が熱平衡維持された状態で起こっているということが見えない。

ブラウン運動ってのは『ひとり相撲』のお話であって,粒子がエネルギーをもらう(揺動という形で)のも,あげる(散逸という形で)のも同じ熱浴相手ということの反映が揺動散逸定理です。ここには摂動やら応答なんて話は一切入ってこない。

これは一般化ランジュバン方程式に話を拡張しても同じで,揺動散逸定理の導出にエネルギー等分配使うわけです。これは熱浴との相互作用が単純じゃなくても,ブラウン粒子と熱浴が平衡状態ということ。

つまり,線形応答ってかグリーン・久保公式が無くても揺動散逸定理は議論できる。

もちろん,揺動散逸定理は線形応答が期待できる状況でのみ成立する。だから線形応答理論から揺動散逸定理が導ける。

揺動散逸定理の本質は『平衡状態の保証』だから,揺動散逸定理が適用できない系は平衡状態には到達していない系なのです。高分子溶液中の異常拡散とかもっと広くガラスなんかがその例。

名著「岩波講座現代物理学の基礎5 統計物理学」を何度も読むと,著者たちがこのことを深く認識していることが分かるです。だから揺動散逸定理を第1種と第2種に分けているわけです。ぼくが言っているのは第2種揺動散逸定理の方なワケですね。

そして同時に,線形応答理論=グリーン・久保公式=揺動散逸定理というミスリーディングを生み出してしまったのも,この名著であるというのがぼくの意見です。

ぼくがこの名著と認識が違うのは,第1種(グリーン・久保公式)と第2種のうちどちらを原理的に重要と見るか,という点です。第1種揺動散逸定理は確かに輸送係数を平衡揺らぎと結びつける式であってグリーン・久保公式そのものだし,線形応答理論の一般性をかんがみれば,重要だとは思います。でもぼくにはこれは揺動と散逸がバランスしているようには見えないんだな。系だけに着目していて,系が外部熱浴と平衡状態にあるということが隠れてしまっている。ぼくは統計力学は外部との特殊な関係を常に考える必要があるという立場なので,原理的に重要なのは第2種のほうだと思います。

まま,とにかく二つの話は結びついているとは言え,見ているところが違います。

話をもうひとつ付け加えると,どっちの話も厳密には「平衡状態のみ」を扱っているのだから,直接非平衡状態を扱っているのではありません。だから単純にLiouville方程式の高次摂動論を行えば非平衡統計力学が完成するなんて考えるヤツは,そもそも統計力学も分かってなければ平衡状態も分かってないし,線形応答理論も分かっていません。さっさと「非平衡統計力学」という看板を降ろしなさい。

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